◆歴史の暗部に正面から迫り、後世に真実を伝えようとしている(75点)
ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダの渾身の力作は、暗い感動に満ちて息がつまりそうだ。第二次世界大戦中、ソ連の秘密警察によって1万5千人以上のポーランド軍将校が虐殺された「カティンの森事件」。この悲劇を、捕虜になった将校たちと、彼らの帰還を待ちわびる家族を通して描いていく。戦後、ソ連の衛星国となったポーランドでは、長い間、この事件は独軍によるものとし、真実を語ることはタブーとされていた。事件で父親を殺されたワイダ監督は、本作で、ついに歴史の暗部に正面から迫り、後世に真実を伝えようとしている。
ポーランドという国名は“平らな土地”という意味だそうだ。平和なイメージだが、その地形は、ヨーロッパの列強に簡単に侵略されることを意味する。第二次世界大戦では、ヒトラーのドイツとスターリンのソ連がポーランドを分割・占領。劇中に、赤と白のポーランド国旗を二つに引き裂く場面があるが、これこそが映画の象徴に思えた。夫のアンジェイ大尉を待ち続ける妻のアンナを中心に、多くの悲劇が語られるが、ラストにアンジェイの手帳に記されていた信じがたいほどむごい虐殺には、言葉を失った。戦争とは、いつの時代も理不尽な悲劇を生むが、これほど悲惨な出来事が、真実を語ることさえ許されず、国民は沈黙を強いられていたとは。本作こそ、祖国ポーランドの歴史を常に見つめてきたワイダの集大成と言ってもいいだろう。冷え冷えとした暗い映像が圧倒的で、眼をそむけてはいけないと観客に語りかけてくる。
(渡まち子)