海嫌いを増やすシリーズ第2弾(60点)
2年前、当サイトでもオススメしたシチュエーションスリラーに「オープン・ウォーター」という作品があった。ダイビングツアー側が人数を数え間違えたため、大海原のど真ん中に取り残されてしまった哀れなカップルの、とてつもなく怖い話であった。
『オープン・ウォーター2』は、あの傑作の続編……というわけではまったくなく、タイトル以外中身は何の関係もない独立したスリラーである。
メキシコ湾に集まった旧友たち6人は、出世頭のダン(エリック・デイン)の豪華ヨットでクルーズに出かけた。やがてヨットははるか沖に達し、はしゃぎまわる若者たちは一人また一人とエメラルドグリーンの海へと飛び込んでいく。そして最後の一人が海に入ったとき、彼らは甲板に戻るためのハシゴをおろし忘れていたことに気づくのだった。
前作(名前だけのパート2ではあるが)と同じく、実話を基にした恐怖映画だ。それほど有名ではない若手の役者を使い、前作ほどではないが比較的低予算で作られている。わずかなミスで海に取り残されるという設定は、相変わらず実感を伴うおそろしさが伝わる魅力的なもの。
今回は、みるからにバカな若者が中心となっており、彼らが犯すミスの内容もあまりにトホホなものであるが、ヨットの甲板が水面から簡単に上がれないほど高いなんて事をつゆ知らぬ、私のような下町育ちのものにとっては、彼らの無知をとても笑えない。そうした人にとっては、背筋をササラでなでられるような居心地の悪い恐怖を94分間、存分に味わうことが出来るだろう。
とはいえしょせんはヨット。決して大型船ではない。シンクロナイズドスイミング団体戦なんぞを見ると、数メートルのジャンプだってやってのけてるじゃないか、うまく頭と体をつかえば何とかなるんでねーの? ……と観客は思うわけだが、これがなかなかそうもいかない。
何しろ女の子たちはうれしくなるほど小さいビキニしか身に着けていないし、男どもだって気軽にシュノーケルでも楽しもうってな程度の装備しか持っていない。ツルツルすべる船体の側面を登る手段など何もないのだ。
しかし希望ゼロというわけではもちろんなく、ツルテカ船体を良く見ると、何に使うのかわからないパネルの継ぎ目があったり、船尾にははためく国旗がぶら下がっていたりする。思わせぶりなそんな「アイテム」と、周りで立ち泳ぎしている仲間たちの特技、知恵をあわせれば、なんとか脱出、いや船に戻れるのではあるまいか?!
そうした一種の謎解き要素が興味をそそる。次はこれ、だめならこれと、テンポよく試される幾多の試行錯誤にハラハラドキドキ、目が離せない。ただ、前作と違って登場人物の行動に抜けた点がやたらと多いため(バカ若者ですから……)、イライラさせられる部分もある。そのもどかしさを味として楽しめればよいのだが。
いずれにせよ、どこからどう見ても「オープンウォーター」の二番煎じには違いないがただ一点、この映画がそれ以上に凶悪なのは、"船室内に赤ちゃんがただ一人取り残されている"という部分だ。
その母親はもちろん水の中。しかも船室には赤ちゃん監視用のマイクがおいてあり、ご丁寧に甲板のスピーカーから船室の様子が聞こえる仕組みになっている。
むろん、飛び込んだ直後はスヤスヤ寝ているので安心だが、いつ目を覚ますかわからない。そして起きたが最後、まだ寝返りもできないであろう乳児を泣き止ます手段は何もない。おっぱいを求めて、あるいはおむつの不快さを知らせるつもりで、ただひたすら泣き続けるに違いない。
おそらくまだ3,4ヶ月程度であろうか、そんな無防備な赤ん坊の泣き声を聞いて、そのそばにいくことが出来ないなどという事が、どれほど恐ろしいことか。実際に子供のいるお母さん、お父さんは想像するだけでぞっとするはずだ。
つまり、のんびりぷかぷか浮いて、いつか救助がくるかもしれないなんて悠長に構えているわけにはいかないのだ。彼らに残された時間は数時間。海面に取り残されているのも悲劇だが、それよりずっと早く赤ちゃんの生命の灯は燃え尽きる。この残酷なまでのタイムリミットが、憎たらしいほどのスリルを生み出している。
観客からすれば、バカ若者が何人死のうが屁でもない(スリルを生まない)が、無垢な赤ちゃんがそうなるとしたら話は別。この瞬間、他人事のように平然とこの映画を眺めることは不可能になり、否応なしに6人の男女の運命に真剣に見入ることになるのだ。
終盤はある種のどんでん返しというか「そうきたか!」と驚くだけのアイデアに満ちており、なかなかやるなと思わせる。なんといっても実話であるから(ちなみに現実とは微妙に結末が異なっている)、非現実的なホラーに辟易としている人にも向く。
一言で言うと、夏にぴったりな怖?い映画。とくに旦那がマリンスポーツに夢中で家計を圧迫している主婦の皆さんなどは、満を持して本作をお連れ合いに劇場の最前列でみせてあげるとよいだろう。きっと来月から、あなたの家の家計簿は黒字になるはずだ。
(前田有一)