◆ペネロペ・クルスの清楚な美しさが輝く(70点)
自ら脚本を書いた『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』で評価を高めてきたイサベル・コイシェ監督が、初めて他人の小説の映画化に挑戦した作品。今回はいつもの個性的な作風を封印したうえで、同じフィリップ・ロス原作、ニコラス・メイヤー脚色の『白いカラス』(海外ドラマ『プリズン・ブレイク』で文字通りブレイクしたウェントワース・ミラーの出世作だ)に似たテイストにまとめ、雇われ監督としても非凡な仕事ができることを証明した。音楽を抑えた演出に、独特の緊迫感が漂う。
奔放な恋愛遍歴を重ねる大学教授デヴィッド(ベン・キングズレー)は、30歳も年下の教え子コンスエラ(ペネロペ・クルス)と深い仲になった時、いつになく嫉妬心と独占欲をかき立てられる。だが真摯な愛を求めるコンスエラは、責任ある関係に踏みこもうとしないデヴィッドにしびれを切らし……。
尊大で利己的なデヴィッドに感情移入するのはかなり骨が折れるが、彼が親友のジョージと交わす会話はシニカルな名セリフの宝庫。たとえば見初めたばかりのコンスエラと話がしたいと言うデヴィッドに、ジョージは「話したければ妻と話せ(女は口説くものであって話すものではない)」と言い放つ。全身に自信をみなぎらせたベン・キングズレーの、ギラギラするような存在感は圧倒的。ジョージ役を演じたデニス・ホッパーの、いつになく毒気の抜けた感じも好ましい。
とはいえ本作の目玉は、やはりペネロペ・クルスだろう。撮り方次第でひどく下品に見えることもある彼女だが、この『エレジー』でペネロペが見せるのは掛け値なしの美しさ。同じスペイン出身のイサベル・コイシェは、自分を監督として推薦した主演女優の信頼に見事に応えた。その信頼関係なくしては、耽美的でありながら、同時に女性監督が撮ったとは思えないほど官能的なセックスシーンは成立し得なかったに違いない。
1度は絆を断ち切ったものの、デヴィッドが親友を、コンスエラが健康を失った時、2人は再び巡り会う。2年ぶりにコンスエラから連絡を受けたデビッドの動揺を、名優キングズレーは受話器を持つ手の震えで見事に表現した。「医者に破壊される前に」裸身を撮ってほしいと頼むコンスエラ。愛欲ではなく、慈しみの目でファインダーをのぞくデヴィッド。言うなればこの時、コンスエラは“あなたになら言える秘密のこと”を打ち明け、“死ぬまでにしたいたった1つのこと”をかなえたのだ。手術で乳房を失った後、コンスエラはデヴィッドに「会えなくなるわね」とつぶやく。彼らの今後は、あなたの想像力に委ねられている。
(町田敦夫)