苦悩する女王陛下(40点)
本作はアカデミー賞に多数ノミネートされた98年のイギリス映画『エリザベス』の、およそ10年ぶりの正統なる続編である。監督・主演女優はじめ主だったメンバーは前作と同じ。ある人物にスポットをあてる歴史映画は難易度が高く、その対象に相当な愛がなければ作れるものではないが、この映画の作り手たちのエリザベス一世に対するそれは、相当深いようだ。女王陛下への10年越しのラブコール、その出来はいかに。
ときは1585年。イングランド女王エリザベス(ケイト・ブランシェット)は、いまだ気の休められぬ日々を送っていた。国内には対立するカトリックの強大な勢力があり、国外には列強が虎視眈々とこの国を狙っていた。最大の問題は従姉妹のスコットランド女王メアリー・スチュワート(サマンサ・モートン)で、エリザベスの正統性を問題にするものたちが彼女を担ぎ、女王の座を脅かすのだった。そんなときエリザベスは、野性味あふれる探険家で詩人のウォルター・ローリー(クライヴ・オーウェン)と出会い、決して成就せぬ恋に溺れていく。
前作のあと、女王として辣腕をふるう彼女が、やがて世界最強のスペイン無敵艦隊との決戦=アルマダ海戦にいたるまでを描く。弱小国だったイングランドとスペインが争い、やがて覇権国家が移り変わるダイナミックな時代だが、そのへんはかなり単純化されている。
その代わり、航海士ウォルター・ローリーとの恋は情熱的に描かれる。国家と結婚したといわれ、処女王と呼ばれたエリザベスだが、実際には恋人が複数おり、しかも行く末はみな強烈だ。だいたいこの頃のヨーロッパは、愛する相手も含めて処刑だ幽閉だと荒っぽい話がたくさんあり、ドラマのねたには事欠かない。
本作でも、そうした激しい恋の様子を垣間見ることが出来る。政治的な戦略もからむその良し悪しは、本来、現代の価値観で図ることは出来ない。だが、シェカール・カプール監督は「愛をもとめた孤独な女王」としてこの人物を造形し、一般客が求めるものとの妥協を試みた。
ちなみに本作でエリザベスの恋人となるウォルター・ローリーは、アメリカ新大陸に渡り、ある土地に彼女にちなんだ名をつける。それが現在のヴァージニア州だ。
記念すべき出世作の続編となるケイト・ブランシェットは、細い体に白塗り姿で苦悩する女王を熱演。勇ましく男たちに命令しても、甲冑を身に着けても女王の威厳はさほど感じないが、弱みを見せる恋愛パートでは適役ぶりを発揮する。
コスチューム・プレイとしては、ゴージャスな衣装やセット、実物大の船で撮影した海戦シーンなど大掛かりな見所がたくさん。だが、よほどエリザベス一世の生き様に興味がある人でなければ、それらはただ空しく網膜から脳内を通り過ぎるだけであろう。
徹底してエリザベスに注力した分、そのほかに魅力的な人物は登場しない。メアリー・スチュワートでさえ影が薄い。歴史でなく人物に興味を持つ人に向けたつくりの映画だから、この点にも不満が残る。
(前田有一)