服飾デザインをアートととらえ、デザイナーの社会的地位が非常に高い、これこそがパリが世界の流行の震源地であり続けるパワーの源なのだ。(点数 50点)
“アーティストは時代に沿いながら変革をもたらす”。その言葉通り
に、常に世間の一歩先を行きモードを引っ張ったきた男は、若くして
大成功を収めた後、孤独と周囲の期待というプレッシャーに押しつぶ
され、酒とドラッグにおぼれていく。映画は彼の公私にわたるパート
ナーのインタビューと膨大な写真・映像から再構成される。服飾デザ
インをアートととらえ、デザイナーの社会的地位が非常に高い、これ
こそがパリが世界の流行の震源地であり続けるパワーの源なのだ。
ディオールの弟子だったイヴ・サンローランは21歳でディオールの後
継者となる。初めてのコレクションは絶賛を浴び一躍有名になるが、
徴兵検査に不合格になり、神経症になってふさぎこんでしまう。
イヴの公私にわたるパートナーだったベルジュが、主のいなくなった
メゾンに放置されたおびただしい絵画彫刻などの美術品を梱包させ、
オークションに出品する。蒐集にどのような傾向があるのか考察は加
えられないが、素晴らしいアートに数多く触れ、クリエーターたちと
創造の苦悩を共有することが、イヴに新作のインスピレーションを与
えていたのではないだろうか。
圧巻はフランスW杯会場でのショー。ランウェイを間近に見るのではな
く、スタジアムを俯瞰して初めてその全容が分かる壮大なスペクタク
ルだ。それは、女性解放のムーブメントは政治や行政からではなくフ
ァッションから始まった事実を如実に物語っていた。
(福本次郎)