◆比較的さっぱりとした絵柄は、無機質なようでいて感情を奥底に秘める、この物語のキャラクターと世界観にフィットしている(60点)
インターネットで配信された人気WEBアニメーションの劇場版は、名付けて“1st. シーズン完全版”。ロボットが実用化されて久しく、人々がアンドロイドを家電として扱うことが常識の、日本と思われる近未来。人間と変わらない外見ゆえに、必要以上にアンドロイドに入れ込む人々は“ドリ系”と呼ばれ、社会問題に。ロボット倫理委員会はそんな社会を監視していた。ある日、高校生のリクオは、自家用アンドロイドのサミィの行動記録から、不思議な喫茶店“イヴの時間”の存在を知る。親友のマサキと共に訪れたそこでは、人間とアンドロイドを区別しないという独特のルールが設けられていた…。
感情を持つロボットと人間の関係性というテーマは古典的なSFの題材だ。喫茶店に集う人々は、人間かアンドロイドかの区別がつかないので、その人間模様(?)は複雑になる。リクオはアンドロイドとは出来るだけ距離を置こうとしているが、イブの時間で飲むオリジナル・コーヒー“イヴレンド”の味に慣れていくのと並行して、ロボットに対する考え方が変わっていく。だが実は大きく変化するのは、アンドロイドを持たないクールなマサキの方だ。彼と幼い頃に使っていたロボットとの関係と、イヴの時間での再会と顛末は、あまりにも切ないもの。イヴの時間に集う人は、皆、優しさを求めているに違いない。比較的さっぱりとした絵柄は、無機質なようでいて感情を奥底に秘める、この物語のキャラクターと世界観にフィットしているように思う。他者とのかかわりが希薄な世界では、アンドロイドというフィルターを通して自分をみつめていくのだろうか。ロボットが人間に似せた人型(ひとがた)である意味を改めて考えさせられる。
(渡まち子)