表舞台に出ているヒーローだけがヒーローではない。誰からも注目されない日陰のヒーローこそが真のヒーローなのかもしれない。(点数 87点)
(C)2014「イン・ザ・ヒーロー」製作委員会
『イン・ザ・ヒーロー』は『蒲田行進曲』を東映の視点で再解釈したものであり、ストーリーのポイントが似通っているのだが、コスチューム・プレイヤーに光り当てたのは仮面ライダーや戦隊ものを作ってきた東映ならではと言えるだろう。
これは縁の下の力持ちであるスーツ・アクターの労をねぎらうリデンプション・ソング(贖罪の唄)なのである。
主人公の本城渉(唐沢寿明)が所属するアクション俳優専門の事務所HACは、今は株式会社ジャパンアクションエンタープライズと社名を変更したが、旧名のJACをリスペクトしたもの。
仮面ライダー、スーパー戦隊といえば、東映が製作会社になるのだが、そんな特撮映画に欠かせないのが着ぐるみを着て殺陣をこなすスーツ・アクターの存在である。
スーツ・アクターはヒーローのコスチュームを身に付け仮面を被るので、その姿は表には出ない。
どんなに華麗でキレのあるアクションをしてもその賞賛は主演俳優に向けられてしまう。
少なくともお茶の間の子ども達にはそんなオトナの事情は判らないだろうし、伝えて良いものでもない。主人公の渉も言う。
「アクションには夢がある」ということを。渉はアクションが子どもに夢を与えることを知っているのでスーツ・アクターが黒子に徹しなければならないことも同時に理解している。
劇中でイ・ジュニク演じる肝煎りのハリウッド監督が新作映画の撮影で来日するのだけれど、アクション大作を撮る際に役者に過酷なスタントを要求するのだが、そこで言うのが「No CG,No Wire」なのである。
これは現在のアクション映画の実態を端的に表していて、今やアクション映画はCGとワイヤーで事足りてしまうのである。
この撮影技法によりアクション俳優の職域が侵食されてきている。
アメリカでは古くはチャック・ノリスがアクション・スターとしての地位を確立していたが、現在ではセガールもアクション俳優の看板を背負って活躍している。
香港ではブルース・リーの後継はジャッキー・チェンだし、海外ではアクション俳優が活躍出来る舞台が用意されている。
だが、渉は「日本ではアクション俳優を目指すとスーツ・アクターしか道はない」と漏らす。
たしかに日本映画ではアクション映画が減ってきて今や最後の砦は子ども向けの番組に限定されてきているように感じる。
”イン・ザ・ヒーロー”とは着ぐるみの中に居るスーツ・アクターのことであるが、拡げて考えると誰の心の中にもいる自分だけのヒーローを指しているように思う。
渉には師と仰ぐブルース・リーがいて、渉を慕って集まる彼の仲間がいる。
J-Walkの唄っぽくなってしまうが、心の中にいる自分だけのヒーローというストーリーに何か気持ちが鼓舞される映画であった。
(青森 学)