イングロリアス・バスターズ - 渡まち子

◆先読みできない展開がすごい(75点)

 ナチスやヒトラーと、その打倒を描いた映画は多いが、この作品はスタンスといい、切り口といい、まったくもって奇想天外だ。歴史的な事実を背景にしてはいるが、史実通りに描く気など、タランティーノには微塵もない。1941年、ナチス占領下のフランスで、家族を虐殺されたユダヤ人少女ショーシャナは、間一髪で逃げ延びる。成長した彼女は映画館を経営しながらナチスへの復讐を誓っていた。一方、イングロリアス・バスターズと呼ばれる連合軍のならずもので構成された極秘部隊は、レイン中尉をリーダーに次々にナチスを血祭りにあげて独軍をふるえあがらせる。独人美人女優で二重スパイであるブリジットの情報をもとに、ある極秘ミッションが計画されていたが、それはショーシャナにも復讐のチャンスとなる。

 何しろバスターズのやることときたらナチスに負けず劣らず残虐だ。頭の皮をはいだり、傷口に指を突っ込むなどの残酷な描写が平気で登場する。タランティーノの十八番であるペチャクチャと続く無駄なおしゃべりはもちろん健在だが、今回は、主要人物が、次から次へと死んでいく先読みできない展開がすごい。ここには映画的な善人は一人も存在せず、誰かに単純に感情移入することは許されない。ナチスと彼らがやった行為はだれもが憎んでいるのは事実。そして劇中でも描かれるように、ナチスが映画をプロパガンダとして最も重視していたことも。この二つをブレンドし、タランティーノは、現実ではできなかったヒトラーへの復讐をものの見事にやってのけた。しかも映画という最強の武器を使って。こう考えると、この戦争アクションは、痛快ファンタジーと呼ぶ方がふさわしい。タランティーノの偏愛するマカロニ・ウェスタンや数々の往年の名作へのオマージュもてんこもりだ。はたして最後に笑うのは誰? ナチスをとことん映画で遊び倒したタランティーノか。いや、勝者は映画そのものだと考えてこそタランティーノの映画愛に応えることになると信じる。

渡まち子

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