圧倒的にスピーディな展開がじっくり考える暇を与えない。(点数 70点)
(C)2011 DARK CASTLE HOLDINGS,LLL
自分はいったい誰? 記憶のみならず、一切の身分証明をなくした男
が途方に暮れ、ヒントを探し、真実を求めてさまよう。ところが、わ
ずかによみがえった妻との思い出も否定され、あらゆる自己認識が崩
壊していく。映画は交通事故に遭った男が経験する奇妙な世界に観客
を放り込み、主人公と同じ感情を体験させる。それは今までに味わっ
たことのない不思議で不愉快な感覚。まるでパラレルワールドに迷い
込んだようなリアルな悪夢となって五感を刺激する。
ベルリンを訪れた植物学者・マーティンは、忘れ物を取りに空港に戻
る途中タクシーが川に転落。昏睡状態から目覚めホテルに戻ると、妻
に「知らない男」と言われた上、マーティンを名乗る別の男が現れる。
マーティンは救けてくれた運転手・ジーナを探し、さらに調査のプロ
を雇う。その過程で殺し屋に襲われ、何らかの陰謀に巻き込まれてい
るのを悟る。断片的な光景は浮かぶが肝心な出来事は思い出せない。
そのいら立ちが募るなかで、ジーナともども命を狙われる。そこで描
かれる心理的サスペンスは非常にテンションが高く、カーアクション
などの物理的スリルは手に汗握る。
何より、どこまでマーティンが真相に迫っていっても、これはすべて
マーティンの脳が創造した「壮大な妄想」ではないかという疑心暗鬼
が付きまとって離れない。一方、圧倒的にスピーディな展開がじっく
り考える暇を与えない。
(福本次郎)