アバンチュールはパリで - 福本次郎

散文的なゆったりとしたテンポの中、絶妙な間合いの会話がとぼけた味わいを醸し出す。もどかしいまでに進展しない主人公と恋人の仲は見る者の期待を裏切り続け、先の見えないエピソードが日常に潜む意外性を強烈に意識させる。(50点)

 パリで出会った男と女、そこからイメージされる華やかな街並みや心躍る恋とは一線を画し、とらえどころのない男のだらだらとした日々を追う。異国の異文化に対する好奇心もなく、時間が過ぎ去るだけ。そんな日々でも健康な男なら性欲を催し、抑えきれなくなる。映画は散文的なゆったりとしたテンポの中、絶妙な間合いの会話がとぼけた味わいを醸し出す。もどかしいまでに進展しない主人公と恋人の仲は見る者の期待を裏切り続け、先の見えないエピソードが日常に潜む意外性を強烈に意識させる。

 麻薬使用が警察に知れパリに逃げてきたソンナムは、韓国人の集まる安宿に泊まる。ある日、街で偶然元恋人のミンソンと出くわし、彼女に迫られる。その後、画学生のユジョンと知り合い、何度か顔を合わせるうちに彼女を好きになる。

 劇的な事件が起きるわけでもなく、衝撃的な秘密が明かされるわけでもない。ソンナムはミンソンとホテルに入り、シャワーを浴びた彼女が「抱いて」というのに聖書を持ち出して性欲を抑制する。一方で、ユジョンに対してはやる気満々で何度も迫るがなかなか受け入れてもらえない一方、彼女の悪評を耳にする。気分次第で書かれた日記のように物語には統一した流れがなく、撮影されたままの映像を見ているよう。その無作為にみせる編集法が奇妙な心理的リアリティを生んでいる。

 ただ、あまりにもヤマ場も緩急もない表現法は冗漫や退屈と紙一重。ソンナムがやっとユジョンの気持ちをつかみ、海辺のホテルに入ったのに「危険日だから」と結局セックスに至らなかったかと思いきや、のちには「妊娠したかも」と言っている。また、帰国して久しぶりに妻とベッドに入ったと思ったら一度会っただけの女を愛人にしている夢を見たりする。この作品のテーマはソンナムの愛の彷徨だろう。ホン・サンス監督は核心をあえて描かないことで浮き彫りにする高度なテクニックを用いるが、観客が集中力を保つためにはもう少し無駄なシーンを削り上映時間を短くすべきだった。

福本次郎

【おすすめサイト】