アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生 - 前田有一

華やかな芸能界から悲惨な戦場まで(60点)

 全裸のジョン・レノンが服を着たオノヨーコに抱きついている、誰もが一度は見たであろう有名な写真がある。あれは1980年12月8日の朝に撮影した写真で、ジョンはその4時間後に銃撃されこの世を去った。本作はこの"最期の日の写真"を撮影した女流カメラマン、アニー・リーボヴィッツの半生を描くドキュメンタリー。

 彼女は世界中の有名人の間でもっとも人気のあるカメラマンの一人であり、作中の関係者の言葉を借りれば、ニコール・キッドマン(いわずと知れたハリウッドのトップ女優)を撮影したい場合、彼女以外の撮影者が依頼すると翌月になるが、アニーであればその日の夜にやってくる、というほど尊敬を受けている。

 ジョン・レノンのポートレート以外の代表的な仕事としては、ヴァニティ・フェア誌の表紙を飾った女優デミ・ムーアの妊婦ヌード、ゴルバチョフ元ソ連大統領を起用したルイ・ヴィトンの広告など、世間を騒然とさせる作品で知られている。

 映画は、そうした有名作品の舞台裏、撮影風景、本人および関係者のインタビューによって構成されている。監督は実妹バーバラ・リーボヴィッツ。

 写真という身近な手段を仕事とする、その頂点の人物像はいかなるものかと思って見たが、意外にも天才芸術家という感じではなかった。とはいえ、その思考感覚、実践の様子は明らかに我々一般人とは一線を画している。それはある種の奇形性ともいうべきもので、やはりマネできるものではない。興味深く眺めるほかはない。

 詳しくは本編に譲るとして、そのワーカホリックな人生をみて、羨ましいと感じる人は多くはなかろう。ヒラリー・クリントンやミック・ジャガー、キース・リチャーズやオノ・ヨーコといった一流の芸能人、編集者、政治家などがいかに彼女を賞賛しようとその思いは変わらない。

 アニー・リーボヴィッツ本人は、仕事に対する心構え、哲学や家族のことなどを語っているが、子供について話しながらもその父親については一切触れない。その代わりに同性の恋人について、延々と話をする。映画だけ見ていても、それがなぜなのかはわからない。妹が監督だからというわけでもなかろうが、そういう意味ではあまり突っ込んだ内容には触れていない。

 作中で紹介される作品の中には、これも彼女が撮ったのかと驚かされるものが多数ある。たとえばボディビルダー時代のアーノルド・シュワルツェネッガーが、バックダブルバイセップスから片腕を伸ばす有名な写真や、75年のミスター・オリンピア(世界最高峰の大会)の大会前、盟友フランコ・コロンブと同室で休んでいる様子など。こうした予想だにしなかった作品を見られたのは、個人的にはうれしい限りであった。似たような発見は、きっと皆さんも個々あるはずだ。

前田有一

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