アウトレイジ - 小梶勝男

アウトレイジ

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◆暴力をテーマに、ヤクザ同士の潰し合いを描いた北野武監督作。よく出来たB級バイオレンス映画(77点)

 北野武監督は、テレビ番組のインタビューで、「どつき漫才」を例に出し、暴力は笑いと同じだと語っていた。漫才でどつかれれば笑いが起こるが、どつかれる方が流血すれば、暴力として恐怖を呼ぶことになる。見せ方によっては、「どつく」という行為は、暴力にもお笑いにもなる。また別の番組では、暴力は描写が過剰過ぎるとホラーになってしまうとも語っていた。ホラーは恐怖だが、血しぶきが過剰に飛び散るスプラッター映画は時として笑いに転化する。笑いにも恐怖にも狂気にも成り得る暴力を、いかに斬新に、痛みが伝わるように表現するか。本作は、エンタティンメントであると同時に、北野武監督による暴力論であるとも言えるだろう。

 題名からして「極悪非道」である。ヤクザ同士が金と出世のため、お互いに利用し合い、裏切り合い、殺し合う。ストーリーは極めて単純だ。登場人物は基本的に全員悪人で、人を傷つけることを何とも思っていない。ビートたけし演じる弱小組長は、組の仲間を裏切ることはしないが、それでも残虐な暴力を振るって笑っている狂気の人間だ。偽善を最も嫌う北野監督らしい、性悪説に基づいた人間観は、決して不快ではない。むしろ徹底ぶりが気持ちいいほどだ。他人を踏み台にしようとする嫌らしさも、とことん突き抜けた先には、獣同士の争いのようなダイナミックさが見えてくる。

 見所の一つは、役者たちの「悪」の演技だ。本作は北野映画としてはわりとセリフが多く、怒鳴ったり凄んだりする場面が連続する。ビートたけしや石橋蓮司ら、いかにもヤクザな面々だけでなく、三浦友和、椎名桔平、加瀬亮らが、意外に役にはまっているのが面白い。役者たちがみんな、暴力のにおいをプンプンさせているのだが、特に英語ペラペラのインテリヤクザを演じた加瀬亮は、底知れない冷たさも感じさせて好演だ。

 北野監督が最も力を入れたであろう暴力描写は、もはや、半ばホラーになっていた。あのアンソニー・ウォンが怪演した「八仙飯店之人肉饅頭」(1993)を思い出してしまった。これは実録犯罪物だが、描写が極端過ぎて完全にホラー映画だった。三池崇史監督のびっくり拷問大会「殺し屋1」(2001)にも通じるものがある。「殺し屋1」までくると、暴力というより、もはや倒錯したSMの世界だった。

 本作では、切れないカッターナイフで指を詰めさせたり、耳の中に箸を突っ込んでかき回したり、歯医者の歯を削るドリルで口の中をかき回したり、もはや猟奇的と言うしかない描写がある。その部分が余りに強烈で、ホラーの世界に片足を突っ込んでしまったような印象だ。

 そこが面白いところでもある。ここで描かれる暴力には、恐怖の中に、狂気や笑いも含まれている。暴力をエンタティンメントとして成立させ、他には何も付け加えようとしない。付け加えないどころか、余計なものを一生懸命削ぎ落とそうとしている。その姿勢はB級バイオレンス映画として実に正しいと思う。

小梶勝男

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