アウトレイジ - 前田有一

アウトレイジ

© 2010「アウトレイジ」製作委員会

◆北野監督らしいトンガリが感じられず(55点)

 近年の内向きな作品「TAKESHIS’」(2005)「監督・ばんざい!」(2007)「アキレスと亀」(2008)をへて北野武監督は、もうひとつの顔、バイオレンス作品に戻ってきた。最新作『アウトレイジ』は群像ヤクザ映画で、全編にあふれた暴力シーンが見所となっている。

 巨大組織山王会本家の若頭(三浦友和)は、傘下の池元組が対立する村瀬組と近づいていると聞き、池元組長(國村隼)に村瀬(石橋蓮司)をしめろと命令する。だがもともと池元はこうした汚れ仕事に手を出す気は無く、さらなる下部組織である大友組にすべて任せてしまう。いつもこうした面倒事ばかり押し付けられる大友(ビートたけし)は、いいかげんうんざりしていたが、武闘派のメンツにかけ全力で敵をつぶしにかかる。

 どこの社会にもある上下関係。中間管理職、最下層の下っ端労働者、あるいは最高経営者。それぞれ悩みをもち、それは尽きることが無い。そんな、誰もが共感できる人間模様を、ヤクザ社会というある意味極端にデフォルメされた舞台で描く。娯楽性豊かなドラマである。

 こうしたエンタテイメント作品を撮るときの北野監督に何を期待するか。観客それぞれだろうが、私の場合はあえていうならオリジナリティ、または意外性といったところ。過去の類似作品、同じジャンルの映画における定石をはずし、こんな描き方があるのかと驚かせてくれる才能がこの監督にはある。

 具体的にいうなら、本作の場合それは殺害シーンのアイデア、ということになろうか。若手の脇役俳優はもちろん、石橋蓮司のような大物だろうが、いやむしろ大物だからこそ予想外のやり方で徹底的にいじめられ、とんでもない殺され方で映画から一人一人退場していく。その死にっぷりのアイデアがいかにユニークか、そこに期待してしまうのである。本作はストーリーをあえて平板に作ってあるので、余計にそう思う。

 だが残念ながら本作の暴力シーンに、現代の映画としてとくに驚くような新味はない。むろん、不快な暴力を自主規制したアメリカの一般向け映画などとは比べようの無い、エグい表現は多々ある。だがそれも、どこかで見たような平凡なものばかりといった印象。唯一、車とロープを使った殺し方だけは面白いと思ったが、このレベルの驚きをもっと詰め込んでもらいたかった。

 100%シリアスな暴力映画というわけでなく、ブラックなギャグも多数。とくに出演もするビートたけし自身がすごむ場面などは、その度に客席から笑いが漏れるような感じ。

 ヤクザ映画としてはそれなりに個性を感じさせるが、北野作品ならではの驚きは薄い。こじんまりとまとまってしまった印象である。

前田有一

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