アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン - 前田有一

ただし出演者に興味を持っただけの人にはまったくすすめない(60点)

アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン

© Lam Duc Hien, Photographer

 先日書き下ろし新作「1Q84」が発売されたばかりの村上春樹。その代表作「ノルウェイの森」の待望の映画化企画が進行中だが、松山ケンイチ、菊地凛子といったキャストに加え、監督に決定したのがトラン・アン・ユン。ベトナム出身、フランスで活躍中の監督だが、その最新作が『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』。木村拓哉、イ・ビョンホン、ジョシュ・ハートネット……日米韓のハンサム俳優勢ぞろいの話題作だ。

 刑事時代のトラウマをかかえた私立探偵(ジョシュ・ハートネット)は、ある大富豪から失踪した息子シタオ(木村拓哉)の捜索依頼を受ける。LAからフィリピン、香港と探し回る中、やがてマフィアの若きボス(イ・ビョンホン)もシタオを探している事が明らかになる。

 キムタクをさがせ! という、この表面的なストーリーにさほどの意味はない。私立探偵は到底マジメに探しているようには思えないし、そもそも捜索のセオリーを監督らが取材した形跡もない。頭で考えただけの、とってつけたような筋書き、キャラクター設定にすぎない。そこを見ていてもイラつくだけである。

 それよりも重要なのは、キムタク=キリスト として繰り広げられるキリスト受難のモチーフ。現代に聖書の中のような行動を取るキリストがいたらどうなるのか、同じ運命をたどるのか、それとも……?

 "痛み"を映像で表現することに力を入れたという監督の狙いがもっとも成功しているのは、クライマックスに登場する不気味なアート部屋の造形か。これほど異形な、スクリーン越しに見ているだけでも不快な物体を作った美術スタッフの仕事ぶりは、まさに賞賛に値する。

 劇中でこれを作った事になっているキャラクターの心理、痛みを想像させるだけの説得力が、このアートにはある。要は、花を切って活けるのもこれと同じだろ、というわけだが、それにしても気持ちが悪い。

 憧れのジャニーズタレントや韓流イケメンの世界的活躍を目にしようとやってきた素人女性たちが、この場面でついに限界に達し、映画館を出てトイレに駆け込んだとしても責められない。それほどにキツい。

 この映画の中には、隠されたテーマにしても、純粋に見た目、たとえば血だらけになるイケメンたちの痛々しい姿にしても、何一つとしてこちらを気持ちよくしてくれる要素はない。だから、これを映画館に見に行く人たちは、相当な覚悟を持って出かける必要がある。

前田有一

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