よなよなペンギン - 前田有一

◆多国籍スタッフによるが、中身はいかにも日本的(45点)

 3DCGアニメーションというものは、本来映画作りのフォーマットの一つに過ぎないはずだった。ところがピクサーという会社が、その分野であまりに凄いものを連発してしまったために、逆に後発のクリエイターから自由を奪ってしまったのではないかと私は考えている。

 ペンギンの着ぐるみをかぶっての夜のお散歩が大好きな少女ココ(声:森迫永依)。ある夜、散歩中に奇妙なフィギュアと遭遇した彼女は、それに導かれゴブリンの世界へと連れて行かれる。そこで彼女は世界を救う勇者と間違われ、村人を悩ますある存在について相談を受けることに。

 『よなよなペンギン』は、日本アニメ界の重鎮りんたろう監督による3D作品だが、何とかピクサーとの違いを打ち出そうとしているような印象を受ける。あえて省略幅を増やした動きとか、無生物的な質感であるとか、その大胆なチャレンジは随所に見られる。

 だが面白いことに、アメリカの巨人とこの作品が決定的に違うのは、そうした外見ではなく内容のほうであった。

 なにしろ、キリスト教の堕天使をモチーフにした登場キャラクターがいるかと思えば七福神(これ自体、様々な宗教の複合体だ)もいる。舞台となるのは、ゴブリンが歩き回るファンタジー世界。流れる音楽はメキシコ風。そして主人公はなぜかペンギン。これほど宗教・地域的なつながりを無視したごちゃまぜ物語が成立してしまうあたりが、いかにも日本的。劇中に登場する飴玉のギミックも、じつに思わせぶりである。

 『よなよなペンギン』は、りんたろう監督&マッドハウス(制作会社)を中心に、フランスやタイといった海外のスタッフの手によって作られたが、おそらく海外のスタッフたちがこの完成版をみたら、色々な意味で仰天するに違いない。ピクサーの企画会議であったなら、きっとこういう話が通る事はなかろう。その意味では、よそとの差別化はできたといえる。

 演出面では、終盤にヒロインが長年の願いを叶えようと走り始めるあたりのアクションシーンに、日本アニメ的な特徴が顕著に現れる。

 ただし物語的には、そのヒロインの「願い」に関しての理由付けが弱い。回想シーンで明らかになるも、「え、それだけ?」といいたくなる。ここはもっと、彼女がその願いを実現することと自分自身の成長を深くからめたいところ。そこに意外性があれば、なお感動を呼ぶだろう。

 お笑い芸人らを起用した声優の演技はなかなかよかったし、ザミーがダンスを踊る場面はコミカルでとてもかわいいものがあった。全体的に挑戦意欲も感じられたが、りんたろう監督ならばあと一歩先までいけたのではないかとの思いが残るのも確か。

前田有一

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