ぼくのエリ 200歳の少女 - 福本次郎

◆体温のない体にも心は宿り、好きという気持ちに応えようとする。最初は相いれない禁断の関係に少年を拒絶していたヴァンパイアの少女の、空白を埋めてくれる彼が愛おしくなっていく様子が、寡黙かつ繊細な映像で描かれる。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 永遠の若さと命を手に入れた代償は太陽を拝めない人生。昼間は暗くしたバスルームで息をひそめ、夜になると欲望を満たすために街を徘徊する。そんなヴァンパイアの少女が、誰にも愛されない少年と知り合いお互いに惹かれあっていく。体温のない体にも心は宿り、好きという気持ちに応えようとする。最初は相いれない禁断の関係に彼を拒絶していた彼女も、己の空白を埋めてくれる少年の存在が愛おしくなっていく様子が寡黙かつ繊細、余白をたっぷり取った寂寥感あふれる映像で描かれる。少年も少女も、感情表現を抑えることで不気味さの中に切なさを醸し出す。

 オスカーの住むアパートの隣室に中年の男と少女が引っ越してくる。夜、中庭でその少女・エリと顔を合わせたオスカーは彼女の美しさに目を奪われる。同時に、街では通行人が襲われる事件が続発する。

 オスカーは学校で暴力を伴ういじめを受けているのだが、エリの励ましで見事いじめっ子を撃退する。そして、念願かなってエリに付き合うことを了承させるのだが、その際に血の契りと言って掌をナイフで切って血を滴らせる。飢えていたエリは床に落ちた彼の血を貪るようになめる。その一瞬、エリは凶暴な表情を見せるのだが、体も精神もずっと12歳のままだったはずのエリが味わった、生きながらえてきた年月の長さと苦悩が凝縮された見事なシーンだった。

 やがてオスカーはいじめっ子の仕返しにあい、プールに沈められる。その際の、いきなりプールの水が肉塊で血で染まり引きちぎられた腕がオスカーの目の前を漂う場面は、あえて現場を見せないで惨劇を想像させる「ジョーズ」を思わせるクールな演出で、オスカーとエリの絆の固さを連想させる。結局オスカーはエリのパートナーになる決意を固める。冒頭にエリと共に引っ越してきた男は人間の血を集め、足りなくなると自分の血を与えてエリの渇きを癒していたが、オスカーにも同じ道が待っている。それはヴァンパイアに恋をした男がたどる運命、孤独を癒すために支払うツケだ。しかし、暗示される厳しい現実と未来を忘れさせてくれるほど無邪気なオスカーの笑顔が救いだった。

福本次郎

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