なくもんか - 前田有一

◆作り手の高い技量を感じさせるコメディ(60点)

 『なくもんか』は、タイトルから想像できるとおり最後にホロリと泣かせるコメディドラマであり、作り手、役者の高いテクニックを感じられる作品である。しかしながら、あるいは、だからこそというべきか、その手法は時にあざとさのようなものを強く感じさせる。大きく好みが分かれそうな作品といえるだろう。

 祐太(阿部サダヲ)は、幼いころ父に捨てられたが、親切な「デリカの山ちゃん」店主一家にわが子のように愛され、幸せに育った。そのためか、彼は絶対に頼まれごとを断らず、どんな仕事でも、たとえ無償でも喜んで働いた。やがて商店街の名物となった祐太だが、彼には生き別れた弟といつか会いたいという長年の願いがあった。

 この映画の手練れたつくりは、個人的には相当苦手な部類であるのだが、その上手さ、良さはもちろん理解できる。クドカン脚本らしい強引気味なギャグにノれる人であれば、気分良く楽しんで帰ってこれるだろう。泣かせるシーンの直後に笑いを入れるタイミングなど、完璧すぎてコメディのお手本のようだ。ようはそれを素直に笑えるかどうか、である。

 「舞妓Haaaan!!!」に続くハイテンションな阿部サダヲのキャラクターを、違和感なく取り込む世界観づくりもうまい。よく作りこまれた商店街のセットでは露出過多気味なショットも積極的に使い、幸福感たっぷりな明るい映像を作り出した。

 ヒロインの竹内結子も、持ち前の振り幅の広い演技力を駆使してこの世界に溶け込み、阿部サダヲの強烈な個性をさえ、たやすく受け止められる実力を示した。この女優はもう、どんな役でも出来るだろう。

 特異なキャラクターばかりだが、決して荒唐無稽なナンセンス劇ではなく、ときにしっかりとした家族観を提示しながら、現実的なホームドラマの範疇にギリギリ収める。ラストの漫才は、聴衆には違和感を与えずに二人の間だけで感情のやりとりをするような内容にした方が良かったと思うが、さすがに厳しすぎる注文か。

 全体的には致命的なミスのない、手堅い出来栄え。ほとんどの人は満足できるだろうが、これで134分。舞台演劇の感覚では普通だろうが、映画としてはやや長い。DVDでいいや、と思う人も少なくないだろう。

前田有一

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