◆とにかく自虐的で皮肉たっぷり(80点)
90年代にハリウッドでアクションスターとして一世を風靡し、現在ではビデオ・DVDスルーのB級アクションで地道に活躍し、日本では単館系B級アクションスターとしてスティーブン・セガールやウェズリー・スナイプスとともに“シネパトスBIG3”(私が勝手に命名)、“ヴァンダミング・アクション ”や“ヴァンダボー”といったキャッチフレーズでお馴染みの、“テレ東洋画劇場の顔”として今でも多くの人々に愛されているジャン=クロード・ヴァン・ダム。
そんな彼が落ち目のアクションスターとなった自分自身を演じることになったのが本作である。監督は、本作が長編映画二度目というブラジル人映画監督のマブルク・エル・メクリで、昔からヴァン・ダムの大ファンだと言う。
ヴァン・ダムは仕事は不調、娘の親権裁判、金銭トラブルでドン底状態。休息を求めて故郷のブリュッセルに帰国する。地元では未だにスーパースターであるヴァン・ダムは、娘の親権問題で何が何でも金が必要でプロデューサーからギャラを前払いしてもらい、その金を引き出すために郵便局に入店する。だが、そこで更なる不幸がヴァン・ダムに降り掛かる。ヴァン・ダムは強盗団に遭遇し、警察からは金銭に困ったヴァン・ダムが容疑者として扱われてしまい、犯罪者という形で再び世間から注目を浴びることとなる。
とにかく自虐的で皮肉たっぷりという点が特徴的だ。監督が大好きなヴァン・ダムにこのような役柄を演じさせているということにも不思議な感覚を抱くが、マイナスイメージを逆手に取って魅力や素晴らしさを引き出したのである。また、ヴァン・ダム本人が苛立つのではないかとも思えたが、ヴァン・ダム本人も隠すことなく堂々と演じており、これがまたカッコいいと言える。ヴァン・ダムは、これを機に新境地を開拓させようとしているかのように思える。
ヴァン・ダム出演作が社会的に不適当、次回作がスティーブン・セガールに主役を奪われた、「父がTV等に出演する度に学校でおちょくられるため一緒に暮らしたくない」という娘、大作映画に出演したいがオファーが無い、大ファンだと言う女性タクシードライバーから「映画で観るヴァン・ダムの方が素敵」といったエピソードは、スターの厳しい現実を浮き彫りにしており、これらがリアルな雰囲気を醸し出している。
本作はアクション映画ではないが、ヴァン・ダムがアクションスターということでちゃっかりとアクションシーンも用意している。これは、ファンに対するサービスと言っても良いだろう。
冒頭で観られる長回しで捉えたアクション映画の撮影シーンで敵にキックを喰らわせ、銃をブッ放したりと次々と敵を蹴散らして暴れまわる。このシーンを観る限りヴァン・ダムは以前よりもパワーアップしているかのように思える。だが、その直後にスタッフらに「失敗だ!」、「47歳だからキツい!」と言い放つ。近年の出演作で観るヴァン・ダムは、本当にパワーダウンしていることが伺えるため、このシーンを観るとヴァン・ダムにアクションが厳しいということに納得させられる。
他にも見事なハイキックを魅せるシーンもある。これらのシーンは、監督がヴァン・ダムに対して敬意を払っているとも捉えられ、同時にヴァン・ダムはまだまだアクションスターとしてバリバリの現役で活躍できるということを証明しているとも捉えることができる。
近年のヴァン・ダムはアクションよりも演技の面に力を注いでいるような感じであり、本作はそんなヴァン・ダムに相応しい内容ということで演技面をメインにしっかりと描かれている。そして、ヴァン・ダムもしっかりと演技力を発揮している。中でも後半で観られるカメラに向かって自身の心情を涙ぐんで語るシーンは最も印象的であり、観る者(特にヴァン・ダムのファン)の心をグッとさせること間違いなしだ。これがまた作品をしっかりと引き締めているのである。ヴァン・ダムの人間らしい思いがじっくりと伝わってくる最高のシーンと言いたい。
本作はコメディー映画であるものの、笑えるシーンがあまりに少ないという点がマイナスだ。どちらかと言えばクライム・サスペンスと人間ドラマを足したような感じの作風であり、この視点から観ると出来栄えは結構良い感じである。コメディーにするならもっとおバカに徹しても良かったのではと思う方もいるだろうが、個人的にはこれだけでも良いと思える。
ヴァン・ダム出演作の中でも最も異色な作品である本作。これをきっかけにヴァン・ダムが演技派を強調して様々なドラマ作品で活躍することも期待したいが、今まで通りのアクションスターとしての活躍ぶりももっと観たい。とりあえず『ユニバーサル・ソルジャー』第三弾に大きく期待したい。
(佐々木貴之)