新人監督による群馬県桐生市のご当地映画。高校生の孤独がテーマだが、ご当地映画の要素を様々に入れて話が拡散してしまったのが惜しい。(点数 55点)
(C)GAFLLC
27歳の新人監督・草野翔吾が、2時間近い映画を作った。監督の故郷でもある群馬県桐生市の企業や団体、ボランティアが協力したご当地映画だ。
予算もなかっただろう。2時間はさすがに長い。ゆるい部分もある。
それでも、捨てがたい魅力を持った作品だ。
主人公の加藤小判(清水尚弥)は、周囲から見捨てられ、存在感がまるでない高校生。余りに周囲に無視されるので、本当に消えてしまう。テレポートするのである。だが、瞬間移動すると、裸になってしまう。
ある日、テレポート先で、小判はシーナと名乗る若い女性(平愛梨)に出会う。
自分の存在感がない、と感じた経験は、多くの人にあるだろう。私自身にも覚えはあり、主人公の気持ちは非常によく分かる。この孤独に焦点を当て、掘り下げていけば、もっと優れた作品になったと思う。
だが、本作は孤独をぎりぎりと突き詰めていく代わりに、ご当地映画としての様々な要素を取り入れていく。
収斂するのでなく、拡散してしまう。
地元のカッパ伝説が絡み、地域の活性化運動が描かれ、ついには、主人公が高校生から若い女性に入れ替わってしまう。孤独の主体が移り変わってしまうのである。
カッパ伝説や、町の活性化運動の部分は、ユーモラスに描かれてはいるが、ユーモラスというより、ゆるくて、冗漫に感じてしまった
。だが、シーナを演じる平愛梨がとてもよくて、主人公の孤独を引き受けるラストの幻想的な場面などに才気を感じた。
大杉漣、宮下順子、品川徹ら、脇を固めるベテランたちも存在感があった。
草野監督の今後に期待したい。
(小梶勝男)