かいじゅうたちのいるところ - 岡本太陽

◆若い才能スパイク・ジョーンズがあの名作絵本を映像化!(60点)

 少年と着ぐるみの巨大なかいじゅうたちが自然の中でたわむれる。なんてかわいい風景。スパイク・ジョーンズの『アダプテーション』以来の監督映画『かいじゅうたちのいるところ(原題:WHERE THE WILD THINGS ARE)』は基本的にそんな感じの映画。本作はモーリス・センダックが1963年に発表した同名名作絵本を原作としているのだが、その絵本は特に大人が読むと数分で読み終えてしまえるもの。それを約101分にまで膨らませて映像化したジョーンズ氏。これはこの絵本で育った大人達が想像していた世界、子供達の想像を邪魔するような余計な事が描かれている様に感じられるのだが…。

 主人公の少年マックス(マックス・レコーズ)は母コニー(キャサリン・キーナー)、姉クレアと3人で一つ屋根の下で暮らしている。マックスは少々わがままで母は彼にいつも世話を焼いている。母親がボーイフレンド(マーク・ラファロ)を家に招いたある晩、彼女はマックスの態度に我慢出来ず、ついに怒鳴ってしまう。お気に入りの狼の着ぐるみを着たまま家出するマックス。「みんな嫌いだ!」。無我夢中で走った彼は気付けばボートに乗っていた。そしてそのボートは大海へ出てある島に辿り着く。そこでマックスはかいじゅうたちに出会う。彼らはマックスを王様として迎え入れるが…。

 絵本の簡潔な物語に詳細を加えたこの映画の中で特にうまく描けているのは、マックスがどういう少年なのか。彼はいわゆる現代にる様な寂しがりやの少年。働きに出ている母は忙しく、ティーンエイジャーの姉はなかなか構ってくれない。いつも何かモヤモヤしていて、まるで自分の体が小さ過ぎるかの様。すぐにでも心が爆発してしまいそうな彼だが、狼の着ぐるみを着るとなんだか違う自分になれた気がした。傍目にはわがままに映ってしまうマックス。しかし、彼は仕事で苛立っている母親を戯けて笑わせようとする一面も持ち合わせる。孤独で傷つきやすい反面、人の気持ちには結構敏感な子供なのだ。彼がただのわがままな子だったら物語に感情移入出来なかっただろう。脚本を手掛けたスパイク・ジョーンズとデイヴ・エガーズ、冒頭の約15分程で、親子の関係やマックスの人物像を十分に描いているのはさすがだ。

 マックスが辿り着く島は森もあり、荒野もあり、砂漠もあり、浜辺もあるという不思議な場所。またあくまでも子供目線の世界観なため、冒険の舞台であるその島は、全て純粋でかわいいらしく映り、登場する7匹のかいじゅうたちキャロル、KW、アイラ、ジュディス、アレキサンダー、ダグラス、ザ・ブル(声:ジェームズ・ガンダルフィーニ、ローレン・アンブローズ、フォレスト・ウィテカー、キャサリン・オハラ、ポール・ダノ、クリス・クーパー、マイケル・ベリー・Jr.)もふわふわで毛むくじゃら。ひょんな事から自分の存在を認めてくれるそのかいじゅうたちと過ごす事になるマックス。それはなんともかわいい小学校の学芸会の雰囲気。この映画の意外な点は、それにも関わらず、かいじゅうたちの何匹かはマックスを食べようとしたり、戦争シーンがあったりと、意外と怖い演出がなされるところだ。親子で本作を観に来ても、それによってかいじゅうたちが嫌いになってしまう子供達もいるはずだ。

 まず何と言っても、このご時世に、誰が見ても完全に着ぐるみだと分かるかいじゅうをハリウッド映画に登場させるのはかなりのチャレンジ。それはどこかしら『ネバーエンディング・ストーリー』を思い出させ、かいじゅうたちのリーダー的存在であるキャロルとマックスの構図は、まるでファルコンとアトレイユのそれの様だ。しかし、その演出をあざといと受け止める人もいる事だろう。サウンドトラックもそんなあざとさに拍車をかける様なやんちゃでキュートなもので、撮影や美術はかなり高度なものだが、結果的にかわいさばかりが目立ってしまっている。

 原作がとてもシンプルなため、映画がシンプルだが中身の濃い少年の成長物語だったら良かったが、着ぐるみのかいじゅうたちとのドラマチックな交流と展開がどうも鼻についてしまう。また、家出した少年が冒険の中で成長して、島にはいられない、家族の元に戻らねばと感じて新たな旅に出るという過程の描き方も十分でなく、ビジュアル的には素敵だが結局のところ平凡な物語になってしまっている。旅に出るまでの物語はとても良いだけに残念だ。それでも主人公を演じるマックス・レコーズの素直で瑞々しい演技は本作の見所の1つ。お腹を空かせた彼が最後に食べるチョコレートケーキを見ると、映画を観終わった後に甘いカカオに包まれたケーキを食べたくなるはず。

岡本太陽

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