かいじゅうたちのいるところ - 前田有一

◆原作も奇妙な絵柄だが、実写にするとなおさら不気味(30点)

 『かいじゅうたちのいるところ』は、特に欧米では知らぬ者のいないモーリス・センダック作の名作絵本だが、それにしてもこれを製作費100億円クラスの実写大作にしようというアメリカ映画界の景気よさには驚かされる。いくら売れているといったって、日本ではノンタンを超大作にしようなどという企画はありえない。つくづく、恐ろしい世界である。

 8歳の少年マックス(マックス・レコーズ)は、シングルマザーの母とケンカして家を飛び出す。ボートに乗り込みこぎ続けていると、やがて彼はかいじゅうたちが住む島にたどり着いた。たまたまオオカミの着ぐるみを着ていたマックスは、かいじゅうたちの王様の座に納まり、皆と王国作りに精を出すが……。

 オバマ大統領がイースター祭で朗読したことでも知られる原作を読むとすぐわかる事だが、あっという間に読み終わるような分量である。絵本の中でも文章は相当少ない部類に入るもので、その魅力の多くは、子供たちの想像力をかきたてる独特の絵柄にある。

 そんなわけでこの映画版も、ストーリー部分はスパイク・ジョーンズ監督らのオリジナルといっていいもの。「絵柄」にあたる部分は、着ぐるみかいじゅうにCGで豊かな表情をトッピングした新鮮なもの。私のように心が汚れている大人には、ひかえめに表現しても悪趣味としか思えないが、ピュアな少年少女が見れば、ドキドキワクワクするに違いない……かもしれない。

 10年以上前から映画化構想はあったというが、監督選定についてや、そもそもアニメのほうがいいんじゃないか等々の意見が入り乱れ、なかなか話が進まなかったという。そのまま止まっていたほうがよかった気もするが、スパイク・ジョーンズ監督の熱意もありなんとか無事実現に至った。

 原作は63年に出版され(日本では75年)、思い入れのある中年層が多いだけに、彼らが当時思い描いた冒険物語を映像にしたものという印象が強い。いまどきの子供たちの感覚とはおそらく相当かけはなれたセンスだろうと私は思うし、だからこれを小さい子供らに積極的に見せようという気にも、残念ながらならない。

前田有一

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