うた魂(たま)♪ - 山口拓朗

◆ヤンキー合唱部の「15の夜」に感動させられるとは思わなかった(80点)

 かすみ(夏帆)は自分のことが大好きな女子高生。しかし、ひそかに思いを寄せる生徒会長が撮ってくれた、大口を開けて歌う自分の顔写真を見てがく然とする。あまりにもブサイクだったのだ。その日以来、自信を喪失してしまったかすみ。しかし、ライバル校のヤンキー合唱部の魂の込もった合唱と、その合唱部の部長・権藤(ゴリ)のひと言をきっかけに自分を取り戻し始める……。

 自意識過剰の主人公かすみが、歌や合唱を通じて、成長していく物語。安心して見られる青春ムービーだ。

 歌とルックスに絶対の自信を持っていたかすみが、はじめて経験した挫折。ところが、彼女に立ち直るきっかけを与えたのは、意外にも、ヤンキー男子学生たちの魂のこもった合唱であった。寸分の狂いもなく譜面を追う洗練された美声も悪くはないが、聴き手の心を揺さぶるには、それだけでは足りない――。自分の傲慢さに思い至ったかすみは、少しずつ、それまでの"突出した個"から、"全体のワンピース"へと変化を遂げていく。

 青春期ならではのイタ恥ずかしいエピソードを適度に織り交ぜながら、喜怒哀楽に富んだ物語は進んでゆく。尾崎豊やモンゴル800の名曲を含めたロック&ポップス系の選曲も功を奏し、合唱を通じて人間がひとつになる歓びや美しさも、この映画は十分に教えてくれる。まさか、冗談のような格好をしたヤンキー合唱部の「15の夜」に感動させられるとは思わなかった。

 主演を務めた夏帆の頑張りは、前半のダメっぷり120%のマヌケ顔からも十分に伝わってくる。それこそ、"突出した個"を捨てて、"全体のワンピース"として、彼女がかすみという役と向き合った証拠だろう。また、ヤンキー合唱部を率いるリーダー権藤を熱演するのは、お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリ。コワモテな見かけとは裏腹に、歌と生き方に一本筋を通すおいしい役どころで、よくも悪くも、かすみが思いを寄せるイケメン生徒会長を完全に食っている。この物語の「キーマン」兼「良心」である。

 本作でメガホンをとったのは、「タナカヒロシのすべて」(2004年)で映画監督デビューを果たした田中誠。「タナカヒロシのすべて」で見せたマニア好みな世界観とは一転、誰もが楽しめる、笑いあり、涙ありの青春ムービーを紡いだ手腕に、映画監督としてのフトコロの深さを感じた。合唱シーンにおけるあまりにベタな演出も、この映画に限っては「有効」の判を押すよりほかないだろう。

山口拓朗

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