アダム・サンドラー演じる役が強烈!(55点)
アメリカのコメディ映画はなかなかヒットしない。ウィル・ファレル出演作等がそれにあたる。アダム・サンドラーの作品も日本ではあまりパッとしないが、彼はウィル・ファレルよりは俳優として知名度が高く、『ウェディング・シンガー』『パンチドランク・ラブ』『50回目のファースト・キス』等日本でも知られる作品もいくつかある。アメリカではもちろんドル箱俳優なのだが、近年はあまり良い作品に恵まれ得ていない。その彼が今夏超大作で混戦の中、あるコメディ映画を放った。それは『エージェント・ゾーハン』と呼ばれる作品で、日本で公開される際には変な邦題が付けられそうな映画だ。
イスラエルはテルアビブに住む同国の防衛隊に長年所属しているゾーハンは、ニューヨークでヘアデザイナーになる夢を密かに抱いていた。両親にその夢を真剣に伝えるゾーハンだが彼らは全く相手にしてくれない。そんな時、ゾーハンに一度釈放されたパレスチナ人テロリストの通称ファントムを再逮捕しよ、という命令が下る。そしてファントムをあと一歩のところまで追い詰めるゾーハンだが、彼は自分が死んだと見せかけニューヨークへ旅立つ。憧れのヘアデザイナー、ポール・ミッチェルのヘアサロンに辿り着いた80 年代風の髪型のゾーハンは、ポール・ミッチェルに会いたい旨を店員に告げる。しかし、時代遅れの髪型で、得体の知れないゾーハンは店員達に小馬鹿にされてしまうだけ。果たして彼はニューヨークで夢を叶える事が出来るのだろうか…。
この映画を監督したのはデニス・デューガン。彼はアダム・サンドラー主演の大ヒット作『ビッグ・ダディ』の監督として知られ、サンドラーとはこちらも大ヒットした『チャックとラリーおかしな偽装結婚!?』でもタッグを組んだ。サンドラーとの共同制作は『俺は飛ばし屋プロゴルファー・ギル』も含め、今回が4度目にあたる。デニス・デューガンがアダム・サンドラーを主演に迎えて監督した作品はヒットする。彼らは相当馬が合うのだろう。
アダム・サンドラーは今まではドジな役が多かったのだが、今回はかなり奇抜なキャラ。彼の作品史上一番奇抜と言っても過言ではないくらいだ。現代のニューヨークに80年代の髪型、モッコリ股間で現れる彼は浮きまくり。しかもイスラエルの防衛隊に所属していたため無駄に強いというところが面白い。若い女の子達にはそっぽを向かれる彼だが、なんとおば様達には大人気のキャラクターだ。正直、わたしはアダム・サンドラーはあまり好きではないが、こういった強烈な役の時は彼は良い味を出す。サンドラーが主演した『再会の街で』という最悪な映画の最悪な役とは大違いだ。
内容は下品で、時に馬鹿馬鹿しいアクションシーンもあり、映画の持つユーモアについつい笑ってしまうが、面白いのは前半だけなのが非常に惜しい。映画全編通して同じ様なテンションで展開していくため、途中から映画の中に出て来る面白いはずのネタが、面白くなくなってしまう。ジョン・タトゥーロも奇抜なキャラクターで出演しており、キャスティングは悪くはないが、特にラスト30分くらいのサンドラーとタトゥーロのやりとりは茶番劇にしか見えない。素人の舞台でも観ている様な気分になって観ている方が恥ずかしくなってしまう。
ジャド・アパトウやアダム・サンドラー等が2000年に『エージェント・ゾーハン』の基になる脚本を書いたのだが、2001年に9/11テロが起こり、物語の中にテロリストが出て来たりするので制作は延期された。9/11から7年が経った今夏にこの映画は公開に至ったが、タイミングが良かったのだろう、現在ヒット中だ。自信過剰なゾーハンが作り上げるこのコメディストーリーはゲラゲラと爆笑出来、気分転換には丁度良い映画と言えよう。
(岡本太陽)