独創的なラブ・ストーリーに鋭い現代文明批判を組み合わせた秀作。ロボットのカップルが愛しい。(85点)
29世紀、人類が去って荒廃した地球。ゴミ処理型ロボットのウォーリーは、700年間ひとりぼっちで作業を続けていた。ある日、そこに真っ白な流線型のロボット・イヴが現れる。ひと目で彼女に恋したウォーリーだったが…。
これはボーイ・ミーツ・ガールの物語だ。ただし主人公は、時代遅れのゴミ処理ロボットとピカピカで最新型の探査ロボット。ひらめきのあるストーリーの中で、人間以上の輝きを放つ彼らは、見るものを必ず虜にするだろう。
映画序盤は、たった一人でもくもくと、でもどこか誇らしげに働くウォーリーのこだわりの仕事ぶりを、テンポ良く描いていく。几帳面な動作、宝探し、労働の後のくつろぎの時間。人類が捨て去った地球の圧倒的な孤独の中、人間らしさを必死に求めるかのようなウォーリーの姿がやるせない。そんな彼のもとにイヴは来た。この出会いこそ奇跡の始まりだ。
凸凹(でこぼこ)コンビのウォーリーとイヴの間に徐々に芽生えるあったかい感情が、映画を珠玉のラブ・ストーリーに導いていく。最初は警戒していたイヴはピンチの時に助けてくれたウォーリーに好意を持ち始める。なんだか、内気なオタク少年が学園一の美少女に恋する青春恋愛映画を見ているようで、ほほえましい。だが凡百の映画と大きく違うのは、喜怒哀楽の感情を、セリフではなく仕草とサウンドだけで完璧に表現していることだ。肩を小さく震わせ笑い合う。そっと手をつないで仲良く夕陽を眺める。このアニメの動きは驚異的に繊細で豊かだ。そして空の美しさといったら、とても言葉では言い表せない。最先端のテクノロジーがほのぼのした物語をしっかりと支えている。
だが、驚くのはここからである。ロボットという設定はユニークでも、プロットは手垢のついた恋愛ものかと思ったら大間違い。まるで、可憐なメロディで始まった音楽が、力強いシンフォニーへと変化するように、壮大な人類救済のストーリーへと昇華していくのだ。小さな植物を見つけたイヴは宇宙船に連れ去られる。彼女を追ってウォーリーも未知の宇宙へと旅立つことに。そこには巨大な宇宙ステーションの中で、怠惰な生活に甘んじる肥満体の人間たちの姿があった。ある秘密によって非常事態となった人類の覚醒、さらにイヴを救うと誓ったウォーリーの大冒険が、宇宙を駆け巡る。
生命と人間性の尊厳を思い出させるのが、不恰好なロボットの一途な思いというところに感動がある。すべてがマニュアル化された社会の中で、コントロールされていることにさえ気付かない愚かな人類は、もしかしたら私たちの未来の姿なのかもしれない。痛烈な文明批判と共に、まだ間に合うと映画は訴える。ウォーリーのお気に入りのミュージカル映画「ハロー・ドーリー!」のように、誰かと手をつなぐ喜びを忘れさえしなければ希望はある。最高の映像技術とセンスあふれるサウンド、そして極限まで練られた物語が、ウォーリーの愛によってコンプリート。スクリーンはたちまち感動の宇宙空間へと変わった。辞書によると“魅了する”という言葉は、人の心を惹きつけて、うっとりさせてしまうことだそう。映画「ウォーリー」にはその言葉がふさわしい。
(渡まち子)