うどんで2時間超の大作は無理がある(45点)
香川県民は一年間で全国平均の2.5倍のうどんを食べる、日本一のうどん好きな人たちだ。彼らが広めた手軽でおいしい讃岐うどんは、いまや全国区のブームを経て、愛すべき庶民の日本食として定着した感もある。
この映画の監督、本広克行も香川県出身であり、だからこそこの最新作は讃岐うどんをテーマにしたのだという。つまり映画『UDON』とは、誰の心にもある故郷を思い出させる食べ物、ソウルフードを描いた作品というわけだ。また、亀山千広プロデューサー+フジテレビ製作という、「踊る大捜査線」シリーズ以来の手堅い布陣で、大ヒットを狙う話題作でもある。
讃岐うどん職人の息子(ユースケ・サンタマリア)は、夢破れてNYから帰国した。渡米による借金返済のため、地元香川のタウン情報誌の記者として働き始めた彼は、編集員(小西真奈美)とともに新連載として地元の隠れ家的うどん店を紹介するコラムをはじめる。これが大受けし、やがて讃岐うどんブームは全国に広がっていくが、それでも昔かたぎの職人である父親との確執は続いていた。
『UDON』は、映画としての満足度がそれほど得られない作品である。問題点としては、監督のうどんに対する思い入れが強すぎて、無駄なシーンをカットできなかった点にある。うどんをテーマにエンタテイメント映画を作るなどという無茶をなんとか成立させた手腕は誉めてあげたいが、それだけで130分を超える大作をでっちあげるのはいくらなんでも無理だ。
具体的には、前半の、雑誌からブームが広がるくだり、これはもっと短縮すべきだ。面白い実話エピソードがありすぎて、なるべくたくさん盛り込みたくて仕方がなかった様子が目に見えるが、映画作品としてはこの前半部は無駄に長過ぎる。むしろ、父親の店を建て直す後半パートこそが、ドラマとしての中核なのだから、力を入れるべきであった。
優れたエンタテイメントを作るためには、ある程度突き放して作品を見られる余裕が必要で、あまりに作り手に題材に関する思い入れが深すぎると、時にそれは諸刃の剣となるというよい例といえるだろう。
そんなわけで映画『UDON』には切れがなく、同時に息抜きとなるべき笑いも少ない。少々のびたうどん、といった感じだ。
ユースケ・サンタマリアをはじめとする役者の演技は悪くないが、演出がいかにもテレビドラマくさくていただけない。これで画面が横長でなければ、もはや映画である意味がない。
『UDON』は、『踊る大捜査線』の映画版で満足できる程度の一般人なら、普通に見ることはできるであろうが、お金を払って何か少しでも特別な映像体験をしたいと思っている人にはすすめられない。
なお、観終わったあとは、うどんでも食べにいこうかな、という気分になれるので、あらかじめ讃岐うどんの良いお店をリサーチしてからお出かけになるとよろしかろう。
(前田有一)