気ラクに楽しめるエンタテインメントにして、ピリ辛な社会風刺作品でもある。(点数 75点)
(C)Twentieth Century Fox Film Corporation
『TIME/タイム』は、近未来を舞台にした世界観がやたらとおもしろい。人類は遺伝子操作により25歳で全員成長が止まり、そこからは等しく余命が与えられる。唯一の通貨は「時間」だ。「時間」があれば「余命」をチャージできる。つまり「時間」を多く所有しているほど長く生きられるのだ(富豪は半永久的に生きられる)――この設定がキモである。
貧困層が暮らすスラム街では「時間」を手に入れようと誰もが必死だ。日銭(時?)を稼いで、どうにか命をつなぎ止める(つなぎ止められない者は死ぬ)。街には消費者金融のような「時間貸し」があり、時間強盗も頻発している。一方、富裕層が住むエリアには「走る人がいない」ほどゆったりとした時間が流れる。高級ホテルに、カジノに、社交ダンス……。彼らは“汗水流す”必要のない既得権益者である。
不老不死を手にすることが人間の幸せなのか? という問いかけを行う一方で、死を免れようとひたすら「時間」の獲得に奔走するスラム街の厳しい現実も描く。一部の特権階級者が弱者から「時間」を搾取する社会構造も含め、現代の格差社会に対する皮肉がたっぷりだ。
時間をやり取りする方法が安直だとか、逃走劇を重視した展開が味気ないとか、勧善懲悪なメッセージが押しつけがましいとか、恋愛絡みのサブストーリーがうるさいとか……ツッコミどころを挙げればキリがない。
しかしそれ以上に、この突飛な設定によって格差社会(通貨システム/資本主義社会)の真相を浮き彫りにした点と、人間の生き方に倫理的な問いかけを行った点が、この作品の大きな成果。気ラクに楽しめるエンタテインメントにして、ピリ辛な社会風刺作品でもある。
自分だったらどう生きるか? 格差社会の行く末は? 鑑賞後に誰かと語り合いたくなる1本だ。
(山口拓朗)