レスラー - 岡本太陽

ムービースター、ミッキー・ローク復活!!(90点)

レスラー

© Niko Tavernise for all Wrestler photo

 ミッキー・ロークがスクリーンで復活を遂げた。彼は『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』『ナインハーフ』『エンゼルハート』等で一気に80年代のセックスシンボルになったが、90年代半ば以降はパっとしない役が続いた。2005年の『シン・シティ』では主役を得たものの、最近では激太りする等、まるで昔の面影はなくなってしまい映画界から葬り去られたかの様に思われたのだが、彼の主演映画『レスラー』がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞に輝き、それに加えなんとミッキー・ロークも演技面で高く評価されているのだ。

 ミッキー・ローク扮するランディ・ロビンソン(別名ラム)は80年代に活躍したプロレスラー。髪が白髪混じりになってもレスリングをやめない彼は、ある日心臓発作で倒れてしまう。医師に「もう1度リングに上がったら死ぬ」と宣告されるランディはスーパーマーケットの惣菜売り場で働き始める。彼にはエヴァン・レイチェル・ウッド扮するステファニーがいるが、彼女は自分の事しか考えていない父に嫌悪感を抱いている。マリサ・トメイ扮するランディが好意を抱く子持ちのストリッパー・キャシディ(本名はパム)に助けを求め、娘と再び家族になろうとするが…。

 本作の脚本を手掛けたのはThe Onionというアメリカの嘘の記事を載せる新聞紙で以前記者として働いていたロバート・シーゲル。そして彼の脚本を基に映画化したのは『レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフスキーだ。彼は低予算で実験的な作品『π』や、スピリチュアルで美しい映像が魅力的な『ファウンテン永遠につづく愛』等、常にわたしたちにサプライズを提供してくる映画監督だ。『レスラー』は今までの彼の作品の中で一番人間ドラマ性が濃い作品ではないだろうか。

 この企画はもともとはニコラス・ケイジに主演がオファーされていた。しかし、監督のアロノフスキーがミッキー・ロークにランディ・ロビンソンを演じて欲しいと思っている事をケイジが悟り、また古い友人であるロークに俳優としての素晴らしい機会を与えるために彼は企画を降りた。男の友情のエピソードがこの映画のバックグラウンドにはあるのだ。そして訪れたチャンスを不意にしなかったロークは、来年のアカデミー賞の主演男優賞へのノミネートは確実をと言われている。

 ロークはランディを演じるにあたり、70年代にプロレスラーとして活躍したアファ・アノアイにレスリング指導を受けた。また、実際のプロレスラー達もこの映画には出演しており、レスリングシーンでは痛々しい映像が登場する。暴力描写は多いが、それが滑稽に映るのがわたしたちの暴力へ対する緊張を和らげてくれる。アメリカのレスリングはWWEの様に演技であり、全て打ち合わせ通りに試合が行われる。その様子もこの作品では描かれており、血まみれになりながらもリング上で互いに息を合わせて戦っている姿は笑いを誘う。

 『レスラー』はミッキー・ロークに注目が集まるが、主演同様助演陣の演技も見どころである。マリサ・トメイは本作でストリップを披露しているのだが、プロのストリッパーに指導を受けた彼女は最終的な指示はミッキー・ロークにもらったという。キャシディはランディの疲れた体と心の拠り所で、彼女は客としてランディには接するものの、常に彼の事を気にかけている。トメイは息子がいることで現実的にならざるを得ないキャシディを女性的な優しさ溢れる役として見事に演じている。ランディの娘ステファニーは無駄な苦労を掛ける父からは独立し暮らしている。その娘をエヴァン・レイチェル・ウッドが演じ、彼女が物語のエモーショナルな部分を司っている。

 ランディ・ロビンソンはプロレスリングを辞めてからは引退したレスラー達と共にサイン会に出席する。しかし周りにいる老いた元レスラーや車椅子に乗った元レスラー等を見ているうちに、そのサイン会場がレスラーの墓場である事を悟る。リングで戦わないのなら死んだも同然だ、こんな所にはいられない、そんな思いがランディの脳裏を過る。

 年老いて体がボロボロになりながらも、リングで戦っているうちに失った人生の欠片を1つ1つ拾い集めようとする男ランディ・ロビンソン。疎遠になっていたステファニーに自分が変わった事を証明するために、レスリングしか知らないにも関わらず彼女に尽くそうとするがやはり自分の持つ性は簡単には変えられない。『レイジング・ブル』の主人公ジェイク・ラモッタがそうだった様に、リングに身を捧げたものは孤独にしか生きられないのだ。

 物語のクライマックスで、破滅的な主人公ランディ・ロビンソンは昔からの宿敵アヤトーラ(アーネスト・ミラー)に最後の戦いを挑む、それが命と引き換えになる事を知っていても。そこにいる彼は闘志を胸に秘めた戦士ではない。わたしたちはガンズ・アンド・ローゼズのSweet Child O’Mineでリングに登場する彼に失うものが無くなった男の悲しくも潔い姿を見るだろう。2008年の『レイジング・ブル』と言っても過言ではない『レスラー』で、俳優として、そしてスターとして返り咲いたミッキー・ロークに喝采を贈る。

岡本太陽

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