THE ROAD - 岡本太陽

◆ヴィゴ・モーテンセン主演最新作、終焉を迎えた世界で描く親子関係。(70点)

 ローランド・エメリッヒ監督作『2012』や、ドキュメンタリー映画『COLLAPSE』の様に、様々な見地から世界の崩壊を唱える映画が見られる様になってきた今日。『ノーカントリー』の作者コーマック・マッカーシー著の原作を基にジョー・ペンホールが脚色し、オーストラリア人映画監督ジョン・ヒルコートがメガホンを取った映画『THE ROAD』でも崩壊後の世界が舞台。ただ、世界に何が起こったのかは描かれず、彼らにも、わたしたちにも原因すら分からない。きっと本当に世界が崩壊してしまったら、人々は何が起こったのかさえ分からないのかもしれない。

 世界が詳細の分からない災いに見舞われてから10年以上が経ったとき、アメリカ南西部のアパラチア山脈付近を名前を持たない父と息子(ヴィゴ・モーテンセン&コディ・スミット・マクフィー)が大陸を南下していた。空は灰色の雲に覆われ、地球上にあるほとんどの生命体は死滅し、生き残った人間の中には「人狩り」をし、人肉を喰らいながら生き延びる者達もおり、世界は「闇」で満ち溢れている。そんな中、「火を持ち」、唯一の希望である南の海岸を目指す父と子だが…。

 かつてヴィゴ・モーテンセン扮する男にはシャーリーズ・セロン扮する妻がいた。彼は物語の中で度々彼女の事を思い出す。原作では妻の存在はあまりないが、映画ではフラッシュバック映像として彼女は度々登場する。現在は男は息子と2人きり。妻の面影を残す息子を闇から守る事だけが何もない世界での生き甲斐であるかの様に息子に諭す、「火を運ばなくてはいけない」と。それは人間の中にある火。優しさ。尊厳。人間性。

 本作は原作者のコーマック・マッカーシーが自身の息子に捧げた作品であるという様に、父と子の関係が物語の大きなテーマとなっている。その父を実際に息子を持つヴィゴ・モーテンセンが扮したのは完璧なキャスティングで、彼は物語の中の父の心情を理解した演技を披露している。『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の父親役とは違う、疲れの染み込んだ表情が印象的だ。

 息子には父以外に家族もいなければ、友達もいない。だから父が教える事が彼のすべて。父は世間知らずの息子に生存者の中には「良い人」「悪い人」がいる事を教えるが、父と母以外の人とはまるで関わった事がないだけに、人に対して興味津々。この世界において、道で人に出会うという事は命の危険をも意味する。ところが息子は、用心深い父とは違い、道中に出会う黒人男性(マイケル・K・ウィリアムズ)や老人(ロバート・デュバル)等にさえも興味を示し、話しかけたり食べ物を分け与えようとする。この息子役のコディ・スミット・マクフィーの純粋な少年の演技は本作の要。ヴィゴ・モーテンセンと完璧な親子像を作り上げるこの少年はただ者ではない。

 人が人に興味を持つのはごく自然な事。本作では飢餓や寒さに苦しむ状況下においても、わたしたちは人間性を存続させる事が可能か、という疑問を投げかける。生きる為なら人狩りだって許される、死人の肉なら食べても良い、やはり共食いは許されない。どこで境界線を引くかは社会も法律も存在しない世界では人の価値観に委ねられる。だからこそ、特に守るべき者がいる者には常に張りつめた警戒心が必要となる。この世界では人を信じるという事さえ不可能に近い。

 この映画で、最も感心な点に映像と音楽が挙げられる。色の無い荒涼とした風景。殺伐とした森。廃墟。道に捨てられた車。監督ジョン・ヒルコートは放棄された社会を、原作の雰囲気通りに映し出す。おそらくハリウッドの映画監督だと、必ずアメリカを象徴する建造物の見捨てられた姿が映画に登場するはずだが、本作にはランドマーク的なものが映り込まない。意外なそのアイデアには特に共感を覚えた。またニック・ケイヴとウォレン・エリスの作り出す音楽が不気味な世界を演出し、わたしたちの緊張感を高めてくれる。本作においての恐怖や感動は音楽によるところが非常に大きい。

 『THE ROAD』は基本的にはシンプルで淡々とした語り口の原作に忠実に脚本が書かれているため、原作を読んだ事がある人にとっても違和感無く観る事が出来る作品だ。しかし、ラストがあまりにも簡単なため作品に強いインパクトを感じる事は難しい。原作にはないが、もし息子が恐ろしい世界で生きて行くための成長の過程や苦悩がなんらかの形で描かれていれば、より映画として完成度の高い作品に仕上がっていた様に感じられた。

 「生き方」、それは人それぞれ考え方が違うのと同じで、皆違っても良い。だから心に「火」を持っていようがいまいが、それはその人の生き方に変わりはない。ほんとうに世界が崩壊してしまったら、わたしたちはどうなってしまうのだろうか。強ちこの映画で描かれる事は単なる想像ではない様にも思えるのだが…。

岡本太陽

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