THE KIDS ARE ALL RIGHT - 岡本太陽

◆レズビアンカップルが精子提供者に出会うとき(80点)

 映画『しあわせの法則』等で知られるリサ・チョロデンコ監督最新作『THE KIDS ARE ALL RIGHT』では、アネット・ベニングとジュリアン・ムーアの演技派の2大女優が2人の子を持つカップルを演じている。本作を観るまでは、そういった現代ではあまり多くない家庭環境を描くという事が本作をユニークなものにしている様にも見受けられるが、チョロデンコ監督とスチュアート・ブラムバーグ氏が手掛けた脚本は、そこに重点を置かず、あくまでも自然な家庭を描き出す。

 レズビアンカップルのジュールス(ジュリアン・ムーア)とニック(アネット・ベニング)は同じ精子提供者を使い、子を出産した母親同士。提供者の身元は不明だったが、年下の息子レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)が父親の不在を気にし始め、18歳の年上の娘ジョニ(ミア・ワシコウスカ)が精子バンクに父親の事で問い合わせる。そして姉弟は実の父親ポール(マーク・ラファロ)に出会うのだが、この事が平穏だった家庭に波を立たせる事となるのだった。

 ザ・フーのアルバム「キッズ・アー・オールライト」からタイトルを引用した本作の舞台がカラッとした気候の南カリフォルニアであるせいか、緩めでライトな雰囲気を醸し出す本作。ところが、物語が展開してゆくに連れ、家族は次々に問題に直面し、本作はそれらを深いところまで追求してゆく。血の繋がりのある父の存在を知ってしまっても、家族は今まで通り存続出来るのか。逆に、突然血のつながりのある子供がいると知った父が、彼らと家族になる事は可能か?また、単純に良い夫婦関係や良い家庭を保つ事の難しさ、家族の誤解による衝突等を、実に自然な空気の中でじっくりと見せてゆく。

 男っ気の全くない家に育ち、例え自分に悪影響を与える男友達クレイ(エディ・ハッセル)の本質を見抜けないレイザー。クレイとばかりつるむ息子にゲイではないかと不安を抱くレズビアンの親2人。オーガニック野菜を使ったレストランを経営する父親の突然の出現にときめくジョニ、そして開放的で気楽に人生を楽しむ彼に胸騒ぎを覚える本当は家を出て働きたいジュールズ。血のつながりのある子供と時間を過ごし、父親になるのも悪くないな、と思い始めるポール。そんな彼に家庭での居場所を脅かされるニックと、主な登場人物がそれぞれ丁寧に描写され、彼らの心情が交錯するのが見所だ。

 答えを導き出すのが困難な家庭問題を正直に捉えたチョロデンコとブラムバーグの素晴らしい脚本に応えるかの様に、主演女優2人がキャラクターに息を吹き込み、本作は演技面でも強い印象を残す。アネット・ベニングはブロンドのショートヘアーで、家庭内では父親的な存在感を漂わせる医師のニックに扮し、ちょっとお堅い一家の大黒柱的存在を徹底的に演じきり、ジュールズに扮するジュリアン・ムーアに至っては、チョロデンコ監督が、本作を彼女のために書き下ろしたというだけあって、彼女の存在が物語の中の酸素であるかの様に自然で必要不可欠にさえ映る。

 物語の舞台であるカリフォルニア州では一度同性婚が認められたが、再び禁止となり、現在アメリカでは同性婚を認めるか認めないかが常に議論の的だ。ところが本作『THE KIDS ARE ALL RIGHT』は政治的な側面は特に見せず、それよりも何が正しくて何が悪いとも言えない人生のグレイゾーンを提示し、わたしたちにそれを見つめさせようとする。また本作の様なセンシティブな題材を感傷的に描くのはおそらく簡単だったに違いないが、それをユーモアたっぷりでリサ・チョロデンコ監督は語る。本作の気取らない自然な空気や、登場人物達の不完全さが爽やかな感動を呼び、そして家族というものについて深く考えさせられるという点が本年度のショーレースでの活躍の期待を煽る。

岡本太陽

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