リチャード・ギア主演、ハワード・ヒューズの偽自叙伝事件を描く（65点）
昨年2006年末から予告で観ていた映画『The Hoax』がやっと公開された。監督のラッセ・ハルストレムといえば、スウェーデン出身で、『ギルバート・グレイプ』『サイダーハウス・ルール』『ショコラ』などの作品で有名だろうか。この監督の映画は人情もので、上質で繊細な物語を紡ぐという印象がある。アカデミー賞にノミネートされるなど、アメリカはもちろん世界的に評価の高い監督である。
この『The Hoax』を観てみようと思ったきっかけは、主演がリチャード・ギアだったからだ。どうしても『プリティ・ウーマン』の印象があるが、特に最近の彼の出演する映画はなかなか見応えのあるものが多い。おそらく『プリティ・ウーマン』に出演したために付いたセックスシンボル的印象を払拭しようとしているのではないだろうか。今回の『The Hoax』では彼が演技派俳優としての地位を確立できるかどうか問われる作品かもしれない。この作品にはリチャード・ギア以外にも私が個人的に好きな俳優が何人か出演している。たとえば、ホープ・デイビス。彼女は助演で主演を光らせる貴重な女優だ。それから演技派のアルフレッド・モリーナ。良い俳優陣が脇を固めている。
ところでハワード・ヒューズという人物を御存知だろうか？彼は『アビエーター』というマーチン・スコセッシが監督した映画の主人公で20世紀を代表する大富豪として知られている。『The Hoax』はリチャード・ギア演じるクリフォード・アービングがハワード・ヒューズの偽物の自叙伝は書くという実話に基づくストーリーだ。
1971 年クリフォード・アービングは出版するはずだった本の企画が潰れたため、誰もがあっと驚くような作品を書く事を誓うのだが、それがハワード・ヒューズの自叙伝だった。ヒューズはこの時期脅迫性障害に陥っていたため、メキシコに住み、外界からの接触を一切断っていた。アービングはヒューズが自身の自叙伝の執筆をアービングに任せる旨の手紙をヒューズの筆跡を真似て捏造し、まんまと専門家までも騙し、物語はメディアをも巻き込む大騒動へと発展するのである。
物語には暗い影の部分も映画の中には描かれており、非常にエンターテイメント性に富んだ作品となっている。この作品を観て、わたしはデビッド・フィンチャーの『ゾディアック』を思い出した。なぜなら、どちらも執着という言葉が映画の主題となっているからだ。『ゾディアック』では連続殺人犯に人生を翻弄される男達が描かれていたし、『The Hoax』ではハワード・ヒューズに取り憑かれた男が描かれている。今年公開されたこの2つの作品を比較してみると興味深いかもしれない。
クリフォード・アービングは本を捏造したため、刑務所に入ってしまったのだが、犯罪を犯した人物であるにもかかわらず、わたしたちは彼に、詐欺師というよりは自暴自棄によりヘマをやってしまった人という様な少々犠牲者的な印象を受けてしまう。おそらくそれは主演のリチャード・ギアが主人公アービングを演じたからだろう、どこか憎めないキャラクターになっている。間違いなくこの作品はリチャード・ギアにとって彼のベストパフォーマンスの一つになるだろう。
わたしたちの世界は様々な嘘で溢れている。日本でもテレビ番組での嘘が公になったり、最近は特に嘘に対して人々の意識が強くなっているように感じる。嘘は人を傷つけたりするし、嘘をつくことでついた本人の信用も落ちてしまう。しかし、ちょっとの嘘が人を幸せにすることもある。白、黒というのではなく場面場面でいい塩梅を探して世を渡って行きたいと思うのだが、なかなか難しいのが現実だ。。。
（岡本太陽）
