◆ベガスで遊んでも、ベガスに遊ばれるな!(70点)
アメリカ映画を観ると、結婚前夜に新郎の男友達が集まってストリッパーを呼んで騒いでいる光景が時々ある。これはバチェラーパーティと言い、男性にとって独身最後のパーティで、羽目を外す事が許される。タイトルに「二日酔い」の意味を持つ映画『ハングオーバー 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い(原題:THE HANGOVER)』でも30代の3人の男達が友人の為にバチェラーパーティを行う。バチェラーパーティに命を賭ける彼らは遊びの聖地ラスベガスを目指すが、これがなんと花婿失踪という大問題に発展してしまう。
ラスベガスに向かうのは既婚で学校教師のフィル(ブラッドリー・クーパー)、歯科医のスチュ(エド・ヘルムズ)、花婿のダグ(ジャスティン・バーサ)、そしてダグの義理の兄になる変わり者のアラン(ザック・ガリフィアナキス)。べガスに到着する一行は、高級ホテル・シーザーズパレスの超豪華な一室を借りる。そしてホテルの屋上に行き、ネオンで煌めく街を見下ろしながらダグの結婚と素敵な一夜を乾杯で祝う…。次の日、フィル、スチュ、アランの3人は滅茶苦茶になった自分達の部屋で目覚める。彼らは昨晩何があったのか全く記憶がなく、それに加え肝心のダグが行方不明に。
本作の監督は『アダルト♂スクール』『スタスキー&ハッチ』のトッド・フィリップス。日本では知名度は低いが、彼は『ボラット栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』脚本を手掛けた事でも知られている。本作『ハングオーバー』も彼の作風通りに男性を主な登場人物にし、男の馬鹿さや幼稚さを描き、男性が観て盛り上がれる作品となっている。
次から次へといろんな事が起こってゆく様を楽しませるために、キャラクター設定がわりと漠然としているこの物語の中で最も詳しく役が作り込まれているのはエド・ヘルムズ扮するスチュ。彼には彼をコントロールするドSのガールフレンドのメリッサがおり、ラスベガス行きも実は反対されている。それでもスチュは彼女に結婚を申し込むつもりで、ホロコーストから生き残った祖母の指輪をプロポーズの時にあげようと考えている。しかし、パーティーの晩に何かが起こり、翌日彼は祖母の指輪をはめたジェイド(ヘザー・グラハム)という女性に出会ってしまう。
主人公フィルは男らしくみんなのまとめ役的存在だが、実はキャラクター設定は一番謎。物語中で、彼のバックグラウンドにはほとんど触れられない。本作は続編の制作も決定しているそうで、次回作では彼についてもっと知る事が出来る事に期待したい。
また登場人物の中でひと際存在感を露にするのが、賢いが非常に子供っぽいため実の父親にまで疎まれている髭面のアラン。彼のジョックストラップ姿が強烈な印象を与える。アランは物語の中では一番のトラブルメーカーだが、天才ゆえに仲間の窮地を救うという場面も。また、それを演じるザック・ガリフィアナキスという 役者にも注目したい。彼はシュールなネタを連発するコメディアンで、「ファニー・オア・ダイ(Funny or Die)」というウェブサイトの“ビトウィーン・トゥー・ファーンズ・ウィズ・ザック・ガリフィアナキス(Between Two Ferns With Zach Galifianakis)”というシリーズが最高に面白い。本作でも彼独特の雰囲気が笑いの起爆剤となっており、これから様々な場での露出が目白押しの才能だ。
豪華なホテルの部屋の中でダグを除く男達が目覚め、彼らは鶏が部屋の中で走り回っているわ、椅子が燃えているわ、バスルームにトラはいるわ、クローゼットに赤ちゃんはいるわという謎の光景を目撃する。またフィルには病院に行った形跡があり、スチュは歯を1本失っている。行方不明のダグを探すと共に、彼らが一晩の間に何をしでかしたのかを辿るのが物語の筋。フィル、スチュ、アラン、ダグのバチェラーパーティ騒動は男のロマンとユーモアに満ち溢れた描き方がされ、1つ1つ謎を解いていくような、まるで大人の冒険映画の様な脚本が特に見事。
男はいつまで経っても少年だ。馬鹿で幼稚だから時には遊びたい。だからそれを理解してくれる女性がいればなお嬉しい。そんな普遍的な男の理想が本作の根底にある。また本作は最初から最後までずっと男目線で語られるゆえ、下品なシーンが多い事も覚悟しておきたい(でもやっぱり、それを受け止めてくれる女達は大歓迎)。謎の一夜を辿る中で、彼らはまたある人物に出会う。それはフィル・コリンズの曲を熱唱するマイク・タイソン。この素敵な共演者もこの男臭い映画の名物の1つだ。
酔っぱらって暴れて記憶を失う人も日本にもたくさんいる。日本はストレス国家であり、ストレスの溜まる毎日の中で時にはハメも外したくもなるだろう。そんな時男はやはり男同士で大いに羽を伸ばし楽しむに限る。『ハングオーバー』は奥さんや彼女の事を気にしてなかなか思いっきり楽しめないモヤモヤ男達に特にお薦めしたい1本である(でも本当は老若男女問わず楽しんで欲しい!)。
(岡本太陽)