THE GREAT DEBATERS - 岡本太陽

言葉の力を信じたディベート・チームの実話に基づく物語(70点)

 デンゼル・ワシントン。彼は、映画『グローリー』でアカデミー助演男優賞、『トレーニング・デイ』でアカデミー主演男優賞を受賞している、90年代から現在に掛けてアメリカを代表する俳優の1人である。彼は俳優であると同時に映画監督の顔も持つ。彼が初監督を務めたのはアメリカ2002年公開の『アントワン・フィッシャー 君の帰る場所』。この映画は主人公アントワンが自身のトラウマと向き合うというなかなか重い題材であった。

 そして 2008年を間近に控えた12月25日、デンゼルの監督2作目の映画が公開された。『THE GREAT DEBATERS』というタイトルの映画だ。あるテキサスの黒人大学に通う生徒達がディベートチームに参加し、人種差別と向き合いながら、言葉の持つ力を信じ、未来を切り開いて行くという事実に基づくストーリーの作品だ。『アントワン・フィッシャー 君の帰る場所』ではデンゼルは助演に徹したが、今回の『THE GREAT DEBATERS』では主演で出演している。

 1930年代、テキサス、1986年にリンカーン大統領により奴隷解放宣言がなされたが、1950年代半ばから始まる公民権運動まではまだ少々先という時代。それは学校や公衆トイレ、外に設置してあるベンチまでもが、白人と黒人専用に別れていた時代。しかも、テキサスは全米の中でも差別が激しい土地だ。そんなところに、ある1つの大学があった。それは黒人が通うウィリー・カレッジという大学だ。ディベート・クラブの顧問を務めるメルヴィン・トルソン(デンゼル・ワシントン)は差別のなくなる世の中を信じ、生徒達の育成に力を注いでいた。そしてヘンリー・ロウ(ネイト・パーカー)、ハミルトン・バーゲス(ジャーメイン・ウィリアムズ)、ジェームズ・ファーマーJr.(デンゼル・ウィテカー)という男子3名、サマンサ・ブック(ジャーニー・スモレット)という女子1名から成るディベート・チームが結成される。このチームはトルソンに徹底的なリサーチや討論のテクニックを教わり、次々と他の黒人大学のディベート・チームを打ち負かしていく。そして白人の大学からもディベートの対抗戦の招待を受ける様になり、後に、彼らには全米No.1大学ハーバードとの対決が待っているのだった…。

 この映画に携わるビッグ・ネームは監督主演のデンゼル・ワシントン、共演のフォレスト・ウィテカー、そしてプロデューサーに、あのオプラ・ウィンフリー。『オプラ・ウィンフリー・ショー』で有名な視聴率女王オプラが、この映画のプロデュースを務めるということで怖いものナシという印象を受ける。それと同時に映画を観たいという興味も薄れるが。彼女が司会を務める番組の年間のギャラだけで2億6000万ドル、その他自身の出版社も持ち、ビジネスもこなす彼女なので、自費で1億ドルくらいかけて自分主演の映画も簡単に作れそうだ。彼女はアカデミー助演女優賞にもノミネートされたことがあるので、そこまで醜い演技はしないだろう。

 この『THE GREAT DEBATERS』は非常に感傷的な映画だ。何度も観た事がありそうな内容であるにも関わらず、泣かされてしまう。この映画で設定されている時代、差別のひどい田舎の方では、白人の差別集団が、黒人をリンチし、殺害し、遺体を木に吊るし、焼くという極悪非道な行為を行っていた。その様子はこの映画の中でも描かれているが、わたしたちは心を痛めるしかない。白人という人種が怖くなってしまう映画だ。黒人によって制作された映画なので、観客にその様な影響を及ぼす事は、映画がうまく「完成」したということなのだろうか。

 わたしたちがこの映画を観ているとき、どうしても感情移入してしまうのには理由がある。それは出演者にある。もちろんデンゼル・ワシントンは良い演技をしているのだが、ディベート・チームに選抜された4人の生徒を演じた俳優達が素晴らしい。それぞれ無名で、先入観がない分、彼らの演技に期待もしないので、最終的には驚かされ、泣かされるのだ。特に、ジェームズ・ファーマーJr. 役のデンゼル・ウィテカーは腫れぼったい顔をしており、自信もなさそうな風貌。しかし、彼の最後の討論には自然と涙が流れてしまう。時々、彼が泉ピン子に見えてしまうのが難点だが。ところで、このデンゼル・ウィテカー君、フォレスト・ウィテカーの親族かと思いきや、アカの他人。デンゼル・ワシントンもフォレスト・ウィテカーも出演しているので、彼の名前から、彼らの親族かと惑わされてしまう。

 あらすじでも述べたが、ウィリー大学のディベート・チームはハーバードのチームと対決する事になるのだが、実際対決したのはハーバードではなく、南カリフォルニア大学だったそうだ。黒人が最強の白人を打ち負かした、という大センセーションを映画の中に含めたかったのだろうが、観る側としては、少々こぎれいまとめられた気持ちもする。この映画は事実にも基づくが、どちらかというと制作者側のノスタルジーに基づくと言った方がいいかもしれない。なぜなら、言葉の力を描くと同時に、今一度黒人差別について考えようという制作者側の思惑は理解出来るのだが、それよりも白人がどんなに非人道的で醜かったかを描いているからだ。

岡本太陽

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