キーラ・ナイトレイ主演で描くデボンシャー公爵夫人の半生(70点)
キーラ・ナイトレイという女優は一体どこまで進化して行くのか。『パイレーツ・オブ・カリビアン』で一躍有名になり、『プライドと偏見』ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、昨年の『つぐない』でもその演技を高く評価された。その彼女が満を持して出演したのが『ある公爵夫人の生涯』という実話を基にしたソウル・ディブ監督の時代劇だ。本作は18世紀に実在したデボンシャー公爵夫人ジョージアナの半生を描く、アマンダ・フォアマンの「Georgiana, Duchess of Devonshire」を映画化した作品だ。
18世紀後期、賭け事の好きな17歳のジョージアナはデボンシャー公爵と結婚する。ファッションや遊びを楽しむジョージアナだが、ある事に気付く。それはデボンシャー公爵が彼女に興味がないと言う事だ。それからというものジョージアナはデボンシャー公爵の度重なる浮気に悩まされる。そして彼女自身もチャールズ・グレイと愛し合う様になるのだが…。
まず、本作は豪華絢爛。チャッツワースハウス、ホルクハム・ホール、サマーセット・ハウス、グリニッチ大学等のローケーションも美しく、また特に目を惹くのがマイケル・オコナーの手掛ける衣装。男女共の衣装に注目してしまうが、やはりジョージアナが身に纏うドレスは溜息もの。この当時は女性も大きく見せるのが流行だった様で、ジョージアナのドレスの腰から下の部分は満開という感じの大きさである。それから彼女は頭には巨大なかつらを着用しており、今見れば美しいというよりは可笑しいくらいだ。
ジョージアナが不遇な人生を歩み始めるきっかけになるデボンシャー公爵は『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』のレイフ・ファインズが扮する。彼のジョージアナへの無関心っぷりは実はこの映画の笑いの拠点。どれだけ身勝手な男なのだろうと思わされる反面、それが可笑しくすら感じられるのは、ファインズ氏のまろやかで上質な演技のおかげだ。
ジョージアナにはヘイレイ・アトウェル扮する友人ベス・フォスターがいる。しかし、デボンシャー公爵はベスとすら体の関係を持ってしまう。そしてジョージアナ、デボンシャー公爵、ベスの3人は奇妙な共同生活を送る事になる。ジョージアナの人生は惨め。次から次へと彼女には悲劇が訪れる。それはむしろコメディに近い。また同時に、夫に半ば公認の愛人がいるという事実を知っているという事から、ジョージアナとデボンシャー公爵の関係は故ダイアナとチャールズ皇太子のそれを思い起こさせる。実はこのジョージアナは故ダイアナと遠い血縁関係にあるという。
ジョージアナ・デボンシャー公爵夫人は悲劇の女。『マンマ・ミーア!』のドミニク・クーパー扮するチャールズ・グレイと愛を交わすが、悲しい結末は免れない。愛を探して、愛に生きたかった女ジョージアナ。彼女の壮絶な半生をキーラ・ナイトレイの素晴らしい演技が彩る。デボンシャー公爵に興味を失われるにはナイトレイがあまりにも美し過ぎるのが玉に傷だが、今回の彼女の演技は彼女の今までのキャリアの中でも最高に近いものであると言えよう。
(岡本太陽)