◆日本が誇る菊池凛子海外映画出演第2作目！豪華スター共演！（60点）
2007年度のアカデミー賞で『サヨナラ』でのナンシー梅木以来50年ぶりに日本人女優が再びノミネートされ、菊池凛子の名前を知った日本人も多かっただろう。『バベル』以降特に女優として精力的に活動を続けてきた彼女の久々の海外映画出演作が『THE BROTHERS BLOOM』だ。本作には『ピアニスト』のエイドリアン・ブロディ、『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズ、『ブラインドネス』のマーク・ラファロが出演している。
監督は2005年の初監督作『ブリック』でサンダンス映画祭に旋風を巻き起こしたライアン・ジョンソンだ。『ブリック』はユニークな言葉が使用され、ほとんどの登場人物が高校生という現代を舞台とした異色のフィルム・ノワールだったが、監督第2作目の『THE BROTHERS BLOOM』は詐欺師の兄弟の犯罪コメディで、2人の詐欺師と1人の女が登場し、詐欺師の1人がその女に恋をするという典型的な詐欺師映画の要素も含みつつ、最後には大どんでん返しを持って来る映画になっている。
まず、物語はトラブルメーカーのスティーヴンとブルームの兄弟（ラファロ＆ブロディ）が家々を転々とし、初めての詐欺に成功する少年期を描く。その後彼らは25年間詐欺師として暮らすが、ある仕事を機に、ブルームは詐欺師を辞める。3ヶ月間ブルームは兄スティーヴンに隠れてモンテネグロで生活するが、何故かスティーヴンはブルームの前に現れ、詐欺師としての最後の仕事を持ち掛ける。そして兄弟は美術商に扮し、価値のない古書を盗み、それを再び売るという計画のためにニュージャージーに住む大金持ちペネロピ（ワイズ）を騙して彼らの仲間に入れるのだが…。
スティーヴンとブルームはタイプの違う兄弟で、スティーヴンは詐欺の計画の才能があり、指揮を執る。計画遂行の為なら悪にもなる性格の持ち主で、危ない賭けも厭わない。一方、ブルームは心配性で、初めて詐欺をやった時に好きだった女の子を騙し快く思わなかった事がトラウマとなり、兄の言いなりになるしかない詐欺業を辞め自分の新しい人生を歩みたいと思っている。とはいうものの、この兄弟は仕事中に人を騙す際の有効手段、兄弟の一方を殺す（フェイク）というテクニックで彼らは再び兄弟愛を強く感じる（言わば特異なプレイの様なもの）という妙な性質を持っており、一方がいなくならない限りは詐欺を続けていくのではないかと思わされる。
ペネロピという女性はお城の様な家に1人で暮らし、退屈な毎日を送っているお嬢様。彼女はあまりに退屈なため、ハープ演奏、ジャグリング、カンフー、ブレイクダンス等ありとあらゆるスキルを身に付けている。情熱のない人生を送っている彼女にとっては、たとえスティーヴンとブルームに騙されたとしても彼らと共に行動する事は冒険であり、1人で空回っている姿が可笑しい。レイチェル・ワイズはドラマ作品に出演する印象が強いが本作でのキャラクターは『ハムナプトラ』を彷彿とさせる役だ。
物語はモンテネグロの他にプラハ、サンクトペテルブルク等で展開し、詐欺映画というよりは冒険映画できらびやかな『インディ・ジョーンズ』の様相を呈す。そしてスティーヴン、ブルーム、ペネロピの旅に同行するのが菊池凛子扮するバンバンだ。爆弾作りのエキスパートの彼女は得体の知れない女性で、物語のスパイスとして重要な役割を担っている。またバンバンは役こそ違えど、『バベル』の千恵子同様言葉を発さない。正確には3言だけ英語を発する他は、コミカルに顔の表情や手等を使い演技をする菊池凛子を拝見する事が出来る。
本作の前半部はレイチェル・ワイズの裸尻も登場し、笑い所満載でうまくまとまっているが、後半は脚本にメリハリが無く素敵なアイデア溢れるストーリーがだらけてしまっている。これだけ才能ある人々が登場しているだけにそこは残念である。ライアン・ジョンソンは現在アメリカ映画界を支える若手映画監督の1人として数えられており、その才能は『ブリック』で保証済み。『THE BROTHERS BLOOM』は公開時期が延期になったりとタイミングが悪かったりした事も原因で、いまいちスパークし損ねているため、近未来を舞台としたジョンソン氏の次回作『LOOPER』に期待したい。
（岡本太陽）
