事件自体がなかったことになった銀行強盗が元ネタの快作イギリス映画(65点)
1971年にイギリスで本当にあった事件を基に作られた銀行強盗映画『バンク・ジョブ』。この映画は現在アメリカで公開中なのだが、スマッシュヒットを飛ばしている。この銀行強盗映画の何がそんなに特別なのかというと、政府からイギリス王室のある人物を守るためディーノーティス(D-Notice)が発布され、事件自体が国家機密となり、その事件がなかったことになった、という嘘の様な出来事を基に作られているからである。
落ちぶれたカーディラーを経営するテリー(ジェイソン・ステイサム)は、取り立て屋に嫌がらせを受ける日々を過ごしていた。そんな時、美人のマーティン(サフロン・バロウズ)が現れ、テリーに仕事があることを告げる。それはロンドンのベイカーストリートにある銀行を襲うというものだった。テリーは数人の仲間を集め銀行強盗を開始するが、マーティンはその本当の狙いを伝えていなかった。実はマイケル Xという男が持つ貸金庫の中に、マーガレット王女のとんでもない写真があり、MI5(イギリスのセキュリティー・サービス)がそれを欲しがっていたのだ…。
イギリス王女のセクシャルな写真の出回りを回避する為に行われた銀行強盗が元ネタという素敵な映画『バンク・ジョブ』。タイトルはシンプルながら、特に後半はハラハラさせられる内容で飽きさせない賢い映画だ。もし日本の皇族の誰かの裸の写真を巡って事件が起きたとしたら、やはりその事件も国家機密となり、事件自体がなかった事になるのだろうか。もしそんな事件があったとしても、後々映画にすらならなそうな気がするが。
この映画の監督は『ホワイト・サンズ』『スピーシーズ 種の起源』『リクルート』のロジャー・ドナルドソン。この『バンク・ジョブ』は監督の手腕がどうのというよりは、元ネタが既に面白いというに限る。主演は『トランスポーター』『アドレナリン』のジェイソン・ステイサム。強烈な作品に好んで出演する作品だが、この『バンク・ジョブ』も彼の目に留まったという事実が笑える。相変わらず渋い声なのだが、大友康平の声にそっくりだなと気付いた瞬間から、ジェイソン・ステイサムが大友康平にしか見えなくなってしまった…。この元モデルのジェイソン・ステイサムという俳優、B級ノリの映画に良く出演するので、日本でいうと哀川翔的ポジションなのだろうか。
おそらくジェイソン・ステイサムファンは彼の出演作の中では『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『トランスポーター』や『アドレナリン』をお好みだと思うが、この映画の中ではジェイソン・ステイサム自体はぶっ飛んでいる訳でもないので、もしかしたら彼のファンには少々物足りない作品かもしれない。しかしながら物語は事実とフィクションを良い具合に混ぜ込んだ快作で、『バンク・ジョブ』というシンプルなタイトルから、あまり期待をして観ないと非常に楽しめる作品だ。
(岡本太陽)