女性器に歯が生える！？映画批評家大絶賛のコメディホラームービー（70点）
"Dumping Ground"。アメリカでは1月をこう言う。1月はいつ公開していいか分からない様な作品が集うため、こう呼ばれるのだ。しかしながら、そこにとりわけ異彩を放つ怪作がある。『TEETH』と呼ばれる本作は、2007年のサンダンス映画祭でお披露目され、批評家らの間で話題になった作品だ。まさにカルト映画を彷彿させるこの作品は、驚きのアイデアで満ち溢れているのだ。
アメリカ、ケンタッキー州ルイヴィルに住む女子高生ドーン（ジェス・ウェイクスラー）は病気の母、義父、義兄と暮らしていた。彼女の通う学校の性教育の授業で使われている教科書では、男性器の挿絵は見る事ができるが、女性器の挿絵にはステッカーが貼られ見る事ができない。そしてドーン自身は地元の赤いリングを象徴とする貞操を守るグループに所属し、性的な事に関してはほとんど知らなかった。しかし、彼女はいつしかトビー（ヘイル・アップルマン）というクラスメイトの事を意識し始める様になる。そしてドーンがトビーを町外れのある池に誘い出した時に、信じ難い出来事が両者に降り掛かるのだった…。
『TEETH』を監督したのはアン・リー監督作品『ウエディング・バンケット』に出演していたミッチェル・リヒテンシュタイン。今回が初監督作品となる。彼は俳優としても知られ、『ウエディング・バンケット』では演技を高く評価された。そして主演のジェス・ウェイクスラーは体を張った演技をこの作品で披露している。というのも彼女の役の設定はアメリカ先住民の間で伝わる女性器に歯が生えているというもの。まさに女優生命を賭けた挑戦だ。その挑戦が功を奏し、彼女はサンダンス映画祭で特別審査員賞を獲得した。
上でも述べたが、この作品はカルト映画の雰囲気を漂わせている。例えば、『ロッキー・ホラー・ショー』や、ジョン・ウォーターズ作品のホラーバージョンといったところだろうか。下手するとタダの笑えるB級映画になってしまいそうな設定にも関わらず、そうならなかったのは監督が素晴らしいからだろう。主演女優のジェス・ウェイクスラーも始めはあまり乗り気ではなかったが監督と会ってから、この映画が予想とは違うものになることを確信したそうだ。それを証明するかの様に、映画の中で、コメディやホラーの要素が含まれていると同時に、実際に行われている不条理な性教育への抗議も垣間みる事ができる。
ところで、この映画のアイデアである女性器に歯が生えるというもの、実はこれはアメリカは先住民の間に伝わる実話なのだ。医学を学んだわたしの友人曰く、本当に歯の様なものが生えるという。それは本当に歯というよりは、腫瘍の一種らしいが。だからこの映画はマンザラただの想像上の話ではないのだ。ちなみに男性の精巣にも同じ様な事が起こる様だ。人間の体は奇怪であると改めて思わされる。
男性器切断等、男性には痛々しいシーンがいくつかあり、また日本公開時にはモザイクがかかってしまうようなシーンもあるので、『TEETH』は非常に危険な映画（！？）だが、逆に愛おしさが芽生えてしまう作品だ。はじめは、貞操グループに所属する生真面目なドーンに苛立ちさえ覚えるのだが、最後には彼女に対し、両手親指を上に立てたくなってしまう。葛藤の末に生まれ変わった彼女は美しい。
（岡本太陽）
