TAKESHIS’ - 前田有一

監督が楽しんでいるのはわかるが(30点)

 大物タレントのたけし(ビートたけし)はある日、楽屋で北野(ビートたけし・二役)に出会う。やけに外見が似ている二人だったが、北野はコンビニのバイトで生計をたてる売れない3流役者。しかしこの出会いをきっかけに、北野とたけしは現実とも夢ともわからぬ世界で、互いの人生の中に入り込んでいく。

 前作「座頭市」が、非常にわかりやすいエンタテイメントだったので、その反動というわけでもあるまいが、『TAKESHIS’』は摩訶不思議で解釈困難な実験的映画になっている。普段から、編集作業が一番好きと語る北野監督が、あらかじめ撮っておいた主人公二人の物語を一度バラバラに分解し、その後めちゃくちゃにつなぎ合わせたような、混沌とした作品になっている。

 全体のタッチとしては、淡々とした中に時折コミカルな要素、ちょっとした笑いが入る。銃を撃ちまくる暴力的な場面もいくつかあって、突き放したその演出はいかにもこの監督らしい。

 あらゆる場面が意味ありげだが、実際のところは何も考えていないのではないかと私には感じられた。この映画は単に、北野監督がひとり編集作業やセルフパロディを楽しんでいるだけで、客が出来上がったものを見て、その意味不明さにキレて怒ったり、それぞれ的外れな解釈をし始める様子をみて、さらに本人が楽しみたいだけなんじゃないか、そんな気がしてならない。

 もしあなたが北野ファンなら、存分に翻弄されてきたら良いと思う。そうでないなら、あえてこの映画を見に行く理由はないだろう。『TAKESHIS’』には、ドラマとしての面白さは1%も期待できない。そうした要素を楽しむ映画ではない。

 役者は北野映画でおなじみの面々に加え、主演に京野ことみ。清純派からの脱却を狙う彼女は、本作でヌードと単独の濡れ場を演じている。明るい照明の元、全裸をさらしてあえぐ様子はなかなか堂々としたものだ。

 夢か現実かわからぬ、めくるめく不思議世界は、前半はそれなりのインパクトがあったが、あまりに長く続きすぎ、後半では少々刺激が薄れてゆく。もっとパンチある演出が見られるかと思っていた分、期待を裏切られた思いであった。

前田有一

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