これは娘を持つ父親たちのためのファンタジー映画だ!(80点)
父親にとって娘というものは特別な存在。ずっと手元に置いて見守っていたいに違いない。しかし、娘も次第に成長し、旅立ちの日がやって来る。親として娘の成長は祝福したいが、気持ちは複雑だ。リーアム・ニーソン扮する映画『96時間』の主人公には溺愛する一人娘がいる。ところがある日目に入れても痛くない娘が誘拐され、父親は1人で凶悪な組織から娘を救い出そうとする。
元CIAスパイのブライアン・マイルズ(ニーソン)は現在ボディガードとして働いている。彼には離婚した妻レノア(ファムケ・ヤンセン)との間に17歳の1人娘キム(マギー・グレイス)がおり、母と住むキムの事をいつも気に掛けている。しかし、ブライアンはある日キムがパリへ友人のアマンダ(ケイティ・キャシディ)と旅行へ行きたい旨を知る。17歳の娘を親の同伴無しで海外へ旅行へ出す事に心配で気が気ではない彼だが、渋々それを承諾し、娘を空港へ見送りに。そしてそれから悲劇が始まってしまう…。
本作の監督を務めるのはリュック・ベッソンが製作を手掛けた『アルティメット』のピエール・モレル。彼は『トランスポーター』や『ダニー・ザ・ドッグ』の撮影監督として知られている。本作もまたベッソンが製作、脚本で参加しており、彼が監督以外で手掛けてきた映画達同様アクション満載で、まるで『トランスポーター』でも観ているかの様な気分にさせてくれる。
『96時間』の物語はブライアンの住むロサンゼルスから始まる。それから『ロスト』のシャノン役で注目を集めたマギー・グレイス扮するキムは初めて友人アマンダと2人だけの旅行に胸躍らせるが、パリに着き父親と電話で話をしている時に、アマンダが何者かにさらわれるのを目撃する。ブライアンはキムの誘拐が免れない事を知りながらも、恐怖に震える娘に冷静沈着に指示を与える。このブライアンが娘にプロフェッショナルな指示を与えるシーンは娘がパリに行くまでの酷い寸劇から劇的に物語に変化をもたらすシーンで、それ以前と以後では全く違うストーリーにすら見えてしまう。
そのシーン以降はブライアンはパリに赴き、キム救出の為なら手段を選ばないアウトローと化す。なぜなら誘拐された娘を96時間以内に探す事が出来なければ、永久に彼女を捜し出す事が出来ないからだ。キムは女性を誘拐しドラッグ漬けにし性の奴隷として利用する集団のアジトに連れて行かれたり、富豪達の競りに掛けられたりするのだが、ブライアンはキムのいる可能性のある場所にいる悪者達を次から次に殺しまくる。怒りに燃えるブライアンはフランスの元スパイの友人の気さくな妻でさえ銃で撃つ(最高!)。彼の姿は人を殺し続ける『007/慰めの報酬』のジェームズ・ボンドの様にも見えるが、『96時間』のブライアン・マイルズには悪者達を罰する理由があり、ジェームズ・ボンドの復讐に狂う姿よりも好感が持てる。
また、本作に登場するアルバニア人ギャング達は女の子達を誘拐し売り、イスラム教徒はアメリカ人の処女とセックスがしたく(物語終盤に出てくる大富豪がジャバ・ザ・ハットにしか見えない)、フランス人はアメリカを助けない。これはアメリカのパラノイド映画で、アメリカの持つ被害妄想がこの映画を作り出したかの用にさえ見える。
これだけハチャメチャな展開をする映画はジェイソン・ステイサムにでも任せておけばいいと思わされるが、もし彼がこの映画の主演だったら可笑し過ぎる映画になっていたはずだ。よって主演はあまり表情の変わらない、落ち着いた声を持つリーアム・ニーソンで正解という事だろう。娘を寵愛する父親にとっての悲劇はやはり娘がセックスを知る事。その父親達が心から切望する願いが『96時間』の底面に浮かんでいる。父親にとって娘の処女を守りたいのは世界共通。本作は父親達の為のファンタジー映画だ。
(岡本太陽)