◆こんなにも理不尽なことがおこっていたなんて(70点)
前作の『私は貝になりたい』を観たこともなく、もちろん、戦争・戦後を体験した訳でもない私には、今作は衝撃的でした。
「上官の命令は天皇陛下の命令だ」。映画は善良な理髪師ですら人殺しをする軍隊組織の狂気を通じて反戦を訴える。しかし、背景の合成が稚拙なうえ、登場人物の過剰な感情的演技がへたくそな紙芝居を見ているような気にさせる。(40点)
「上官の命令は天皇陛下の命令だ」と、躊躇している二等兵に向かって上官が言い放つ。止める者は誰もおらず、仕方なく磔にされた米兵に向けて銃剣を突き出す。この捕虜殺害事件において二等兵は責任を負うべきか否か。映画は善良な理髪師ですら人殺しをせざるを得ない状況に置かれる軍隊組織の狂気と、それが理解されない占領軍による一方的な裁判の理不尽さが産む悲劇を通じて反戦を訴える。しかし、田舎町の風景や空襲を受けた都市などの合成が稚拙なうえ、登場人物の過剰な感情表現がへたくそな紙芝居を見ているような気にさせる。
中居正広の個性を評価したい(65点)
伝説的TVドラマを名脚本家・橋本忍が自ら改訂して再映画化したのが本作。理髪店を営む清水豊松は、突如、戦犯として逮捕される。軍隊の非情な実態や、弱者に犠牲を強いるB・C級戦犯裁判の不公正に、誰もが怒りを覚えるだろう。この物語がTV草創期の1958年に生まれたことが驚きだ。旧作の主演は名優フランキー堺だが、彼の演技を真似るのではなく、平凡で誠実な青年というイメージで演じた中居正広の個性を評価したい。ただ、希望の光が見えた裁判が不条理に覆されたからくりを掘り下げてほしかった。21世紀の今だから語れる事実もあるはずと推察できるだけに残念。
◆名脚本家の50年越しの問題提起(60点)
ちょうど半世紀前に放送された同名テレビドラマのリメイク作品だ。脚本は1958年のオリジナル版や、1994年の最初のリメイク版と同じ橋本忍。数々の黒沢映画に脚本を提供し、今年90歳になる老大家にとって、本作はことのほか思い入れの強い作品であるらしい。理髪師の清水豊松は、戦時中、上官の命令で捕虜の殺害に手を貸した。戦争が終わり、妻子との平凡な日常を取り戻したかに見えたある日、彼は戦犯として逮捕され……。