偶然に頼るラブストーリー(50点)
人生に迷う大人が主人公だが、展開は少女漫画のようで、偶然に頼るラブストーリーだ。古びたアパートの隣同士に暮らす聡と七緒は、壁越しに聞こえる生活音を通して互いが気になり始める。熊澤監督らしい清潔感あふれる演出の中、思わぬ悪意に傷つく様子などビターな一面もあって、ハッとさせられた。だが、男女が顔を合わせることなく“音”で癒される設定が作品の個性なのに、音の力が恋の決定打にならないのは物語として弱い。冷静に考えると、隣の音が筒抜けなどという生活は御免なのだが、奇麗事の物語を“ナチュラル”と勘違いできれば楽しめよう。あくまでもささやかなお話として、もっと短くまとめてポエティックな作品にするべきだったのではないか。会話だけで恋の成就を示唆したエンドロールがしゃれていた。