豪華キャストが「利口な人々」を演じる快活なコメディ作品(65点)
「利口な人々」という題名の付けられた映画『SMART PEOPLE』。個性的なキャストで彩られるストーリーが魅力的だ。そのキャストとは、デニス・クエイド、サラ・ジェシカ・パーカー、トーマス・ヘイデン・チャーチ、そしてエレン・ペイジだ。これだけ個性的な演技派が揃ったこの映画が面白くない訳が無いはずだが、その真相は…。
ペンシルバニア州ピッツバーグに住む中年の大学教授ローレンス・ウェザーホールド(デニス・クエイド)は妻に先立たれた事をずっと引きずっていた。ある日彼は車で息子ジェームズ(アシュトン・ホームズ)を訪ねる為に大学の寮を訪れるのだが、その際に車を牽引されてしまう。車を取り戻しに行くものの、自身の誤りが原因の事故で入院する事になる。彼は次の日が大学に入る為の検定試験(SAT)で嫌々ながらに見舞いにやって来た娘ヴァネッサ(エレン・ペイジ)をよそに、魅力的な医者ジャネット(サラ・ジェシカ・パーカー)と意気投合する。ローレンスが退院し、家に戻ると、そこにはなんと養子の弟チャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)の姿が。金がなく住ませてもらいに来たという。ウェザーホールド家4人、そしてジャネットを加えた5人のトラブル続きの日々が始まる…。
ノーム・ムロ監督、マーク・ポアリエ脚本のこの『SMART PEOPLE』では特にキャラクターの描き方が優れている。主人公ローレンスは疲れきっているヴィクトリア文学を教える大学教授で、自分が他の人よりも賢いという理由から周りとうまくコミュニケーションが取れなくなっている。そして娘のヴァネッサはそんな父をロールモデルに育ち、彼女も頭脳明晰、母の死後、家族を支えてきたが、父のわがままには耐えきれなくなっている、そんな彼女の心のよりどころは叔父のチャック。父に比べてチャックは自由気まま、父とは正反対の彼に奇妙な感情を抱き始める。医者のジャネットはローレンスの元教え子、そんなことはローレンスはすっかり忘れていたが、互いに惹かれ合う2 人、しかし自分の事しか考えていないローレンスの本性が見えて来て、ジャネットは失望し始める。
この映画の素材は非常に素晴らしい。『イカとクジラ』の様な作品に成り得た映画だが、どうも気が散ってしまうのだ。それは何故かと言うと、サラ・ジェシカ・パーカーとエレン・ペイジのせい。サラ・ジェシカ・パーカー演じるジャネットが年上の彼、つまりローレンスとデートをするシーン等は、どうしても『セックス・アンド・ザ・シティ』を思い起こさせる。また、エレン・ページにおいては、話し方も、話す内容もどう見ても『ジュノ/JUNO』なのだ。彼女達にはイメージが既に浸透している為、それなしで鑑賞するにはかなり困難だろう。
それでもコメディ路線を進み、心が温まり、しかしセンチメンタルなメロドラマにはなっていないという作りには非常に好感が持てる。素晴らしい個性的な俳優を使っているわりには作品自体にあまり強いインパクトはないが、不完全な登場人物を通して、おとなしくリアリティを追求している作品と言えよう。
人は皆不完全。人は無意味で愚かな事をする。そしてどんなに利口で賢くとも何らかの決断を下す際にはトラブルは避けられない。そんな『SMART PEOPLE』という普通の人々を描いている本作はメロドラマの様に感情を乱されるわけでもなく、『スーパーバッド童貞ウォーズ』の様に大爆笑させるわけでもない。全部が丁度いい作品だ。もし、『ジュノ/JUNO』の前にこの作品が公開されていたら、イメージによる気の散り様を半減出来ただろう。
(岡本太陽)