俳優ジョン・タトゥーロ監督作品(90点)
ジョン・タトゥーロという俳優がいる。演技派として知られ、コーエン兄弟作の『バートンフィンク』ではカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞、ロバート・レッドフォードが監督した『クイズショウ』ではゴールデン・グローブ助演男優賞にノミネートされている。またコーエン兄弟の作品等によく出演することでも知られている。しかし、彼が監督としても活動している事を知っている人はいるだろうか?過去に『Mac』『天井桟敷のみだらな人々』という2作品を発表している。今回わたしはコーエン兄弟を制作に迎え、ジョン・タトゥーロが監督した『Romance & Cigarettes』という作品を興味本位で観に行ったのだが、なんとこの作品はとてつもなかったのである。
その『Romance & Cigarettes』は現代のアメリカ、ニューヨークはクイーンズが舞台のコメディである。へビースモーカーでブルーカラーの職を持つニック・マーダーは結婚して子を持ったものの、長年連れ添った妻には愛想を尽かされ、邪魔者扱いにされている。そんなニックは魅惑的なトゥーラという女に惑わされ、浮気をしてしまう。そしてそのことを知った妻は怒り狂い、ついにこの夫婦は互いの信頼を失ってしまう。しかしながらニックはある悲劇を通し、誰が一番自分を愛してくれていたか、誰に一番尊敬されていたか、誰が自分に一番必要なのかをもう一度確認するのだった…。
マーダー家の夫ニック・マーダーを演じるのは『ザ・ソプラノズ』で主役のトニー・ソプラノで有名なジェームズ・ギャンダルフィー二。ドラマや映画に出演が続く彼は今回の『Romance & Cigarettes』のニックはハマり役だった。誘惑に負けてしまう男のやるせなさや、切なさを見事に演じていた。ニックの妻キティ・マーダーを演じるのはベテラン女優スーザン・サランドン。今年は4本の映画に出演する等活躍に衰えを見せないところは凄い。そしてニックを誘惑するトゥーラを演じるのはケイト・ウィンスレット。この映画の中では、豊満ボディのセクシー美女を大熱演。その他、クリストファー・ウォーケン、スティーブ・ブシェーミ、マンディ・ムーア、メアリー=ルイーズ・パーカー、アイーダ・タトゥーロ等が出演。ジョン・タトゥーロはよくこんなに一流の俳優を集められたなと驚きだ。
この『Romance & Cigarettes』という映画、最近観た映画の中ではダントツで一番度肝を抜かれた作品だった。コメディだが、ミュージカル的要素も含まれていたりして、まるで宝石箱の様にキャストも映像も輝きを放っていた。好き嫌いが分かれそうな作品かもしれないが、会話も快活で、感情的にも非常に豊かな作品で、わたしは映画館で黄金の時を過ごす事が出来た。また、「淫ら」という言葉がピッタリ当てはまる映画である。
おもしろいところは、ニック・マーダーの娘のうちの1人、ローズバッドを演じるアイーダ・タトゥーロ。実はジェームズ・ギャンダルフィー二とは1歳しか違わないのだ。アイーダ・タトゥーロは『ザ・ソプラノズ』にも出演しており、彼女が演じるジャニスはトニー・ソプラノとは姉弟の関係だ。それで今回の映画ではこの2人は親子を演じている。おかしくて、非常に不思議な光景だった。しかしながらこの不思議な感覚等は、『Romance & Cigarettes』の超現実的さを楽しむ1つの要素だ。
ジョン・タトゥーロは映画の中のキャラクターが言葉では表現できなくなった場合、歌う事によって、キャラクターは彼らの潜在意識と同調する、と言っていた。まさにその通りで、この映画は野蛮なミュージカルの中で、キャラクターの中に潜む言葉では表せない意識や感情を表現し、観客に伝える事に成功している。知り合いに薦められて、興味本位で観た映画だったが、映画が終わっても、この映画の事を考えずにいることができないくらい印象的な作品だった。日本で公開されるかは分からないが、『Romance & Cigarettes』はこの秋の映画の中でもかなりお薦めの1本。
(岡本太陽)