◆カルトの巨匠、デヴィッド・リンチが製作総指揮、その娘ジェニファー・リンチが「ボクシング・ヘレナ」(1993)に続いて監督したサスペンス・ミステリー。全編を漂う異様なムードはまさに父親譲りだ(81点)
あらゆるジャンルの映画のオールタイム・ベスト10を選ぶとしたら、デヴィット・リンチの「マルホランド・ドライブ」(2001)は必ずその中に入れることになるだろう。その娘の作品として期待は大きかったが、裏切られなかったのがうれしい。デヴィッドほどではないにしても、映像に圧倒的な力があるのだ。
特に素晴らしかったのが冒頭の殺人シーンだ。暗闇の中に一瞬映る白いマスクの顔。恐怖そのものが音になったような悲鳴。必死で逃げる女。この場面は相当に怖い。悪夢を見ているようで、一気に作品に引き込まれた。
その後、猟奇殺人の現場に居合わせた警察官(フレンチ・スチュワート)、若い女(ペル・ジェイムズ)、少女(ライアン・シンプキンス)の3人を、FBI捜査官2人(ビル・プルマンとジュリア・オーモンド)が取り調べる場面となる。黒澤明「羅生門」(1950)のように、3人の証言は食い違っていく。
本作は3人の証言と、回想を示すフラッシュバック映像で話が進んでいくので、3人のウソは回想によって否定され、観客にすぐに分かる仕組みになっている。「羅生門」のように3人の証言が食い違っていく面白さではなく、あくまでも事件そのものの異様さ、そして事件に関わった人間たちの異様さを描くことが本作の主眼なのだ。
そして、それは成功していると思う。事件の真相とともに、事件の異様さ、事件を巡る人間の異様さが明らかになっていくのが実にスリリングだ。人間の心の底に潜む邪悪さという、得体の知れないものを覗き込んで、もう後戻りできなくなるような怖さが感じられた。
ラストは一種のどんでん返しとなっているが、「意外な結末」というより、唐突といった方がピッタリくる。それまでのサスペンスをぶち壊してしまうような、実も蓋もない唐突さなのだが、本作にはそれが相応しいように思えるから不思議だ。そこにも映像と同様に、理屈抜きの暴力性を感じてしまうのである。
父デヴィッドの作品ほど難解、不条理ではないにしても、腑に落ちない部分は確実に残る。それが本作の怖さにもなっている。いつまでも消化し切れずに心に残る本作の「不条理」には、「見てはいけないもの」が隠れているような気がする。




























