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マッハ!弐

◆「マッハ!」「トム・ヤム・クン!」でアクション映画の歴史を変えたトニー・ジャーが、今回も人跡未踏の領域に踏み込んだ。次々と繰り出されるアクション場面は圧倒的に凄いが、これは「前編」に過ぎない。話が完結していないのだ(88点)

 トニー・ジャーは、ジェット・リー、ジャッキー・チェンと並び、現代のアクション俳優の中で最高峰の一人だろう。「マッハ!」(2003)「トム・ヤム・クン!」(2005)の両作では、これまで見たことがないハイレベルなアクションに、本当に驚いた。この新作は、「マッハ!」の続編のようなタイトルだが、前作と話は別物だ。今度は、日本人町があり、山田長政も住んでいたというあのアユタヤ王国(1351?1767)の時代が舞台で、クンフー映画だが歴史ファンタジーの要素もある。

 今回、トニー・ジャーは、主演はもちろん、監督・原案・武術指導も担当。共同監督に「7人のマッハ」を監督したパンナー・リットグライ、プロデューサーに「マッハ!」「チョコレート」の監督プラッチャヤー・ピンゲーオと、最強の布陣が敷かれている。そして、ジャーはムエタイの他に、酔拳、日本刀による剣術、関節技、三節棍、縄標(ジェット・リーが「少林寺」で見せた縄の先に小さな剣を突けた武器)、忍術、柔道など、あらゆる技に挑戦している。また、タイ舞踊と格闘技を融合させたナーターユットという格闘法を新たに考案して披露もしている。

 それらの技の完成度はどれも素晴らしく、酔拳一つとってもジャッキー・チェンとは違うジャー独特のリアルなアクションに仕上げていて、またもや驚き、感動させられた。縄標もジェット・リーのような優雅さはない代わり、はるかに力強い。本当に「凄い」の一言に尽きる。そして今回はアクションだけでなく、タイの文化や、様々な民族が混在していたアユタヤ王国時代の雰囲気がリアルに描かれ、実に面白い。傑作ではないかと思ったのだが、ラストで唖然とさせられた。この映画、話が途中で終わっているのだ。

 アユタヤ王国の支配が進む500?600年前のタイ。東の王国でクーデターが起き、国王と妻が殺され、息子のティン(トニー・ジャー)だけが逃げ延びる。ティンは奴隷として売られそうになるが、山賊「ガルーダの翼峰」のリーダー、チューナン(ソーラポン・チャートリー)に救われ、山奥のアジトでムエタイ、中国拳法、剣術使い、忍者らから、様々な格闘技を修行する。大人になったティンは、山賊の次のリーダーとして期待されるが、両親を殺した家臣が奪い取った領土で王になるという知らせを聞き、その即位式に乗り込んでいく。

 奴隷市場や山賊のアジトで登場する様々な人種は、体型も表情も実に異様だ。タイ人、中国人、クメール人、モン族、ラワ族、ラオ族、そして、日本人もいたのかも知れない。この多様さがアクションにも反映していて、世界各国の武術を一度に見ることが出来る面白さがある。走る象の群れの背中から背中への移動、リアルにアレンジした酔拳、刀と刀での激しい打ち合いなど、驚愕する場面の連続だ。ジャングルを背景に、巨人や不気味な鴉男(ダン・チューポン)、黒ずくめの忍者らが次々と現れ、画面には緊迫感が漲っている。俳優たちの顔つきは演技と思えず、残酷描写も容赦がない。雰囲気はメル・ギブソンが監督した「アポカリプト」に近いかも知れない。

 山賊のアジトのセット全体を使ったジャー対忍者軍団の死闘は圧巻だった。屋根から屋根へ、激しく戦いながら移動し、様々な武器を取り替えつつ操り、最後は象を盾に使ったアクションも見せてくれる。もはや超人的と言うしかない。一方で、タイ舞踊などの見せ場もあり、舞踊を取り入れた格闘など面白いアイデアも披露してくれる。前2作でアクション映画の歴史を変えてきたジャーは、本作でさらに新たな扉を開いたと言えるだろう。

 しかし、映画はジャーが忍者軍団に倒され、捉えられる場面で突然、終わってしまう。物語は完結しないのである。これは「前編」ということだろうか。どうも、製作会社とトラブルがあったようで、途中で製作費がなくなり、一時はジャーが失踪したとも伝えられている。

 本作はトニー・ジャーにとっての「地獄の黙示録」(1979)なのかも知れない。フランシス・フォード・コッポラ監督はジャングルの中の撮影で様々なトラブルに見舞われ、次第に狂気に陥り、作品自体が「闇の奥」(「地獄の黙示録」の原作)へと入り込んでしまった。しかし、コッポラの狂気は「戦争の狂気」として映画の中に刻み込まれた。ストーリーは迷走しているにもかかわらず、凄まじい緊迫感と狂気を孕んだ名作として、映画史に残ったのである。本作もまた、ジャーのアクションは狂気にも似た迫力を孕み、フィルムに確かに焼き付けられている。

 現在、ジャーは「マッハ!参」の撮影に入っているというが、それが本作の続編となるのだろう。このままでは余りに中途半端だ。「7人のマッハ」で主演したダン・チューポンとジャーの対決ももっと見たい。「後編」と一緒になったとき、本作はアクション・ファンタジーの傑作として、真の姿を現すのかも知れない。

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