映画ファン待望の電子書籍(スマートフォン向けアプリ)

真幸くあらば - 小梶勝男

◆死刑囚とボランティアの面会者の恋愛を極めて真面目に描きつつ、ラストは非常に珍妙で、その落差はカルト映画化しそうなほどだ(67点)

 見終わった後、唖然としてしまった。余りにヘンテコな展開に驚いたのだ。本作はカルト映画化するかも知れない。見る前の作品のイメージからは想像出来ないような、とても変な話なのだ。極めて真剣に、切ない恋愛が描かれているが、その先に待っているのは、笑うに笑えないような珍妙な結末だ。

 空き巣に入った家で居合わせたカップルを殺してしまい、死刑囚となった青年・南木野淳(久保田将至)に、クリスチャンの女性・川原薫(尾野真千子)が面会に訪れる。ボランティアで淳の話し相手になるという薫は、実は淳が殺した男の婚約者だった。婚約者は、薫とは別の女生と合い挽き中、殺されたのだ。アクリル越しに何度も会ううちに、淳と薫はお互いを好きになり、秘密の通信を始める。

 本作の奇怪さはまずタイトルに現れている。どう読んでいいのか分からない。万葉集の中の言葉で、「まさきくあらば」と読むらしい。監督は森山直太朗の楽曲の歌詞を共作してきた詩人の御徒町凧。この人も「おかちまち」はともかく、下の名前の読み方が分からない。冗談みたいだが、「かいと」と読むらしい。

 製作は奥山和由。共演に佐野史郎、ミッキー・カーチス、テリー伊藤。森山直太朗が音楽監督を務め、主題歌も歌っている。曲者だらけのスタッフ、キャストだが、映画の内容もその顔ぶれに負けていない。

 刑務所生活の描写がリアルだ。もちろん刑務所に入ったことがないので本当は分からないが、点呼の様子や、休憩時間の過ごし方、食事の出し方などが、ドキュメンタリーのようにリアルに見える。刑務所の中だけでは映像的に暗くなってしまうが、四季の描写を巧みに交え、意外に画面は陰鬱にならない。

 死刑囚とボランティアの面会者の間に恋愛関係が生まれるのかどうか、という疑問はあるが、犯罪を通して二人に特殊な関係があるので、それはまあ納得出来た。問題はその先だ。淳と薫は刑務所で面会を重ねるだけで、決して触れ合うことが出来ない。このような恋愛がどういう決着を見せるのか。とても興味を惹かれるが・・・・いやまさか、それはないだろうというような結末に、映画は一直線に進んでいく。

 ふだんはネタバレのレビューは避けているが、ここからはあえて、ネタバレで書く。そうしないと、この映画の面白さが伝わらないと思うからだ。

 二人は時間を決めて、刑務所の独房と、マンションの部屋と、それぞれ離れた場所で、お互いに相手がいると仮想してセックスするのである。いわば「エアーセックス」だ。

 アラン・パーカー監督の秀作「ミッドナイト・エクスプレス」(1978)では、トルコの刑務所に投獄された主人公の青年が、面会に来た恋人をアクリル越しに見ながら自慰をする。あの場面もやや珍妙さを感じたが、本作のエアーセックスはその比ではない。しかし極めて真面目に、二人の恋愛の成就として描かれているので、いよいよ珍妙に思えてくるのである。

 その珍妙さは一見の価値がある。エアーセックスが終わって倒れた淳を月が照らし、窓枠が淳の裸体に十字架の形に影を落とす場面など、あざといが、淳の運命を見事に表現したいい場面だった。

小梶勝男

スポンサードリンク