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イングロリアス・バスターズ

◆タランティーノらしい、映画愛に満ちた映画至上主義の映画。キャラクターが魅力的で、すべての場面に緊張感がある(91点)

イングロリアス・バスターズ

© 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 本作のテーマが「映画愛」であることは、誰の目にも明らかだ。映画館を舞台に「映画館作戦」が実行される。ナチスは映画をプロパガンダの武器にしようと、プレミア上映会を開催。その上映会で、ナチスへの復讐の武器となるのはフィルムなのである。最後は映画が歴史すらも変えてしまう。どこまでも映画至上主義の作品だ。

 だが、その「映画愛」を立派だと思いつつ、なぜかそこに心底からの感動がない。タランティーノにとって、これまで「映画愛」は常に「偏愛」だったのではないか。本作の映画愛はこれまでの作品より普遍的で、偏愛ならではの混沌が感じられないのだ。「キル・ビル」2部作や「グラインドハウス」のような、狂気じみた迫力が希薄だった。

 様々な戦争映画へオマージュを捧げているのは分かるが、戦争映画というジャンル自体にはメジャー感がある。ホラーやクンフー映画など、普通の人から理解されず、ある意味差別されているマイナージャンルほどには、偏愛を呼び起こすパワーに乏しい。タランティーノ自身、映画を見る限りは戦争映画オタクなのかどうか分からない。

 物語は5部構成で描かれる。「ユダヤ・ハンター」と呼ばれるハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)のユダヤ人狩り。そこから逃れた少女ショシャナ(メラニー・ロラン)の復讐劇と、「イングロリアス・バスターズ」と呼ばれる連合軍の極秘部隊のナチ壊滅作戦が、クライマックスに向かって次第に一つになっていく。

 キャラクターがとても魅力的だ。特にクリストフ・ヴァルツの存在感が圧倒的だった。にこやかで抜け目がなく、どこまでも冷たい底知れぬ怖さ。従来のドイツ軍大佐のイメージを覆す演技だと思う。メラニー・ロランの完璧な美貌や、二重スパイの女優ダイアン・クルーガーの色気、バスターズのリーダーを演じるブラッド・ピットのタフガイぶりも見事で、実に様になっている。

 ユダヤ人を匿う農家とランダ大佐とのやり取りのサスペンス。ドイツ軍人に化けた連合軍中尉の正体が、言葉の訛りでばれそうになる息詰まるスリル。すべての場面に映画らしい緊張感が漲っている。「アラモ」やマカロニ・ウエスタンのサントラなどをそのまま使った音楽や、唐突な人物紹介の字幕の出し方など、タランティーノらしいお遊びもある。本当に面白いし、よく出来たエンタテインメントだと思う。

 それでも、「キル・ビル」を初めて見たときのような感激はなかった。あのときは、「これはタランティーノが私のために作ってくれた映画ではないか」と感じたほどだった。

 「キル・ビル」2部作はただの映画ではない。「映画についての映画」だ。すべてのシーンが過去の映画へのオマージュで、そのオマージュの対象は、私が青春時代に見てきた映画とほとんどピッタリ重なっていた。そして、「映画愛」が凄まじい混沌となって迫ってきた。

 タランティーノとの「同世代感」を濃厚に感じさせるという意味で、「キル・ビル」は映画マニアの「同世代映画」と呼んでいいかも知れない。ショウ・ブラザースにも千葉真一にもブルース・リーにも座頭市にもマカロニ・ウエスタンにも興味のない人にとって、あの映画は表現の面白さはあるとしても、本当の感動は与えてくれないと思う。

 「グラインドハウス」に至っては、「映画についての映画」であると同時に、「映画館についての映画」でもあった。映画を見る環境にまでオマージュを捧げているのである。週末は京都の二番館で必ず3本立ての映画を見て過ごしていた私の中学、高校時代と、アメリカのどこかのグラインドハウスで一日中、B級映画を見て過ごしていたタランティーノの少年時代とが、映画を通じてつながり合う。そんな奇跡があの映画にはあった。タランティーノの「同世代感」はただものではない。過去の作品を簡単に見られるようになったビデオ世代や、場末の小屋で2本立てB級映画を見たことがないシネコン世代には、「グラインドハウス」の感動は本当には理解出来ないと思う。

 本作はいつものタランティーノの映画として十分に面白いが、「キル・ビル」2部作にあった混沌がなく、「グラインドハウス」にあった奇跡がない。映画としての完成度はこれらの作品よりも高く、これはこれで素晴らしいと思う。それでもどこかに満足出来ない部分があるのは、タランティーノ・ファンとしての歪んだ「映画愛」なのかも知れない。

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