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楽映画批評

クリーン

◆国際派女優が自己実現と母性の間で揺れる(60点)

クリーン

© 2004 – Rectangle Productions / Leap Films / 1551264 Ontario Inc / Arte France Cinema

 アジアを代表する国際派女優のマギー・チャンが、母親の微妙な心情を演じてカンヌ国際映画祭の女優賞を獲得した作品。日本の俳優が欧米資本の映画に出ると、えてして“借りてきたネコ”にしか見えないものだが、英語とフランス語を駆使するチャンが、カナダに、あるいはパリにたくましく根づいて見えるのが印象的だ。

 歌手としての成功を夢見るエミリー(チャン)は、人気の落ちたロックスターの夫リーと、クスリ漬けの生活を送っている。幼い息子のジェイはリーの両親に預けっぱなし。周囲の人間とはトラブルばかり。ところがリーがヘロインの過剰摂取で突然死し、エミリーも半年間、刑務所に収監。彼女はそこに至って、それまでほったらかしにしていた息子を取り戻そうと考えるのだが……。

 本作を好きになれるかなれないかは、ヒロインの生き方に共感(少なくとも容認)できるかどうかが分かれ目かもしれない。息子と一緒に暮らせるよう、生活を立て直しにパリに移ったにもかかわらず、エミリーは相変わらずクスリと縁の切れない生活。華やかな世界に戻ることばかりを夢見て、ウェイトレスや販売員の仕事には身が入らない。「そんな年齢になって何やってんだよ」と眉をひそめる観客も多いだろうが、「我が身を見るようでけっこうイタい」と感じる向きも少なくはなさそうだ。

 そんなヒロインが変わり始めるのは、義父の温情でジェイと週末を過ごせることになってから。エミリーの方は息子のためにすべてをなげうつ決意をするが、「ママがパパを殺した」と聞かされてきたジェイの方は、もちろん素直になつかない。ついに爆発した幼いジェイとエミリーが本音でぶつかり合うシーンは圧巻だ。エミリーはジェイを子ども扱いすることなく、リーの死の背景や、ドラッグの功罪について包み隠さず打ち明ける。

 これが日本人の作る日本映画だったら、こうして距離の近づいた母子は、それから幸せに暮らしましたとさ……となるだろう。エミリーは販売員の仕事に身を入れ、貧しくても息子と2人で生きていく。ところが脚本・監督のオリヴィエ・アサイヤス(マギー・チャンの元夫でもある)は、それをよしとはしないんだな。“改心”したはずのエミリーは、なんと再び息子から離れ、シンガーとしての最後のチャンスに飛びつくのである。エミリーにジェイを託したがっていた義父(ニック・ノルティ)が、一転して「そう来なくては」と言いだすのは、おそらくアサイヤスの本音の反映だろう。

 だけど、どうなんでしょうね? 母たるものが自分の夢を追ってはいけないなんてことは口が裂けても言わないが、エミリーの実力は、演じるチャン自身が「(エミリーには)歌手として成功するだけの歌唱力、頂点を極めるだけの才能はないでしょう」と評する程度のものだ。見ているこちらの頭には「挫折」「クスリ」「育児放棄」なんて言葉が渦巻いて、またぞろ眉をひそめたり、イタみを感じたりせずにいられない。アサイヤスはこのエンディングにささやかな希望をこめたと推察されるが、その意図に反して、クスリもやらなければ歌手を目指したこともない地道な映画ライターは、自己実現への願望と親としての務めとのあるべきバランスについて、深く考えてしまうのだった。

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