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デュプリシティ ?スパイは、スパイに嘘をつく? - 町田敦夫

◆だまされるのを楽しみたい、トニー・ギルロイのソフィスティケートされた罠(70点)

 劇中で交わされるほとんどの会話は、話し手が聞き手に聞かせるためのウソ、または話し手と聞き手が第三者に聞かせるためのウソ、あるいは映画の作り手が観客に聞かせるためのウソ。『デュプリシティ スパイは、スパイに嘘をつく』は、企業犯罪映画に大人の恋のスパイスをまぶした、ハイセンスなサスペンスコメディである。

 トイレタリー用品メーカー「エクイックロム」に雇われた産業スパイのレイ(クライヴ・オーウェン)は、ライバル社の「B&R」に潜りこませた二重スパイのクレア(ジュリア・ロバーツ)から、「驚異の新製品」開発の情報を得る。実はこの2人、かつては英国と米国の情報機関にそれぞれ所属し、熾烈なだまし合いを演じた仲。今やパートナーとなった2人は、「B&R」はもちろん、「エクイックロム」をも出し抜こうとしていたが……。

 監督・脚本はジェーソン・ボーン三部作の脚本で評価を高めたトニー・ギルロイ。娯楽映画としてはかなり微妙だった前作『フィクサー』の反省からか、この第2作目は遊び心をふんだんに散りばめた、より一般受けする作品に仕上げている(それでもかなり教養程度の高い層向けという感はあるが)。回想シーンで描かれるレイとクレアの過去のいきさつを観ていると、何度か違和感を覚えたり、辻褄が合わないと感じたりするはずだ。その違和感をどうか心に留めておいてほしい。やがて謎解きが行われ、すべてはギルロイが幾重にも仕掛けた伏線だったとわかるから。

 かつては敵対関係にあったレイとクレアの関係性が出色。この2人、相手のスパイとしての有能さ(つまりはウソのうまさ)を認めているがゆえに、感情的には惹かれ合いながらも、理性では一抹の疑念を捨てきれない。一緒に脱サラして「共同事業」を始めようと話を決めても、裏切られるんじゃないかという頭があるから、些細な会話にも緊張感が走る、走る。とはいえ、最初の出会いから一貫して、レイはクレアにポイントを取られっぱなし。その女性上位ぶりが、ストーリーにいい感じの軽みとくすぐりを添えている。

 非情な世界で生きてきた2人だから、目的のためには割り切って何でもするのかと思いきや、たとえばレイが色じかけで情報をつかんだと知ると、クレアはたちまち不機嫌に。このあたりの機微の描写はラブロマンスの基準に照らしても上々だ。筆者の一番のお勧めは、レイの家を訪ねたクレアが部屋の隅からパンティを見つけ出すシーン。クレアが「なぜこんなものがここにあるの?」と問いつめれば、レイは「知らない。見当もつかない」と真顔で言い張る。その後の成り行きはしかし、あえてここには書かずにおこう。ただ、ウソのヘタな筆者にはとても勉強になった、とだけ言っておきます、はい。

町田敦夫

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