◆トム・クルーズがナチスの反逆のヒーローに(60点)
ナチスが権勢を振るった第2次世界大戦期にも、ドイツ国内には秘かにその政権転覆を謀る勢力が存在したという。『ワルキューレ』は彼らが実際に決行したヒトラー暗殺作戦を、『ユージュアル・サスペクツ』の監督&脚本コンビが克明に映画化した政治サスペンスだ。
本作で何より興味深いのは、ナチスの主流派と反ヒトラー勢力との確執を、単純な正邪の戦いではなく、両派の政治的な主導権争いというリアルな視点で描いていること。そのため反ヒトラー勢力も決して一枚岩ではなく、野心にはやる者がいたり、保身に走る者がいたり、日和見を決めこむ者がいたりと、見ていてけっこう生臭い。ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、テレンス・スタンプらのベテランが、そうした複雑な人間像に手堅く息を吹きこんでいるのが注目される。
そんな中でやや浮いているのが、いかにもハリウッド的な「正義のヒーロー」になってしまった主役のシュタウフェンベルク大佐だ。演じたトム・クルーズにとっては、実在の人物であることといい、隻眼・隻手であることといい、米国人ではない人物であることといい、異例ずくめの役柄となったが、その人物像は平板のそしりを免れない。ブライアン・シンガー監督は当初、本作を比較的低予算の小品として作るつもりだったという。それが「トム・クルーズ主演の娯楽大作」に変容する過程で、主人公のキャラクターもハリウッド受けする(つまりは膨大な製作費を調達&回収できる)ものに変えざるを得なくなったのだろう。もっとも、そのおかげで大向こうから声のかかるようなクルーズの見せ場もいくつか生まれているのは事実なのだが。
暗殺の実行シーンはサスペンス満点。想定外の出来事が次々とシュタウフェンベルクに降りかかるのに加え、起爆から爆弾の設置、逃走までを10分間ですまさなければならないという時間制限が、より一層ハラハラ感を盛り上げる。
それに続く情報戦も見応え十分だ。独裁者の死をいち早く喧伝し、一気に政権転覆に持ちこみたい反ヒトラー勢力と、総統の死亡を否定して動乱を抑えたい政府側が、熾烈な多数派工作を繰り広げる。ヒトラーの死骸を確認しなかったシュタウフェンベルクが陥る疑心暗鬼と焦燥を、シンガーの演出はスリリングにすくいとった。彼らの計画が失敗に終わったのは周知の事実なので「意外な展開」を楽しむというわけにはいかないが、そのぶん、滅びゆくことを運命づけられた者たちの悲哀が胸に迫る。
(町田敦夫)
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