◆まじめ人間がハマった、めくるめく運命の落とし穴(70点)
会計士という職業は、どうも欧米人の間では相当退屈な人種というレッテルを貼られているらしく、たとえば『モンティ・パイソン』のあるエピソードの中では、マイケル・ペイリン扮する公認会計士が、ジョン・クリーズ扮する職業カウンセラーからこんなことを言われていた。「あなたの性格は驚くほど退屈。想像力に欠け、臆病。指導力も決断力もない。卑屈で、ユーモアのセンスもゼロ。社交性に乏しく、許しがたいほど無気力で、だらしがない。ところが他の職業では致命的となるこうした欠点も、公認会計士にとっては大きな長所となるのです」
『彼が二度愛したS』の主人公ジョナサンも、やはり会計士だ。ニューヨークで退屈かつ孤独な暮らしをする彼は、時折自分の名前を検索エンジンで調べては、「一致なし」という結果を見て、自分の無価値さをかみしめる。そういえば先日公開された『ウォンテッド』では、ジェームズ・マカヴォイ演じる主人公(これまた、しがない会計士)が、銀行の口座残高を尺度にして自分の価値を計っていた。自分に自信が持てない人間は、外的な物差しに頼りがちになるということか。
ところがセレブな弁護士ワイアットと知り合ったのを機に、そんなジョナサンの人生が一変する。会員制秘密クラブの一員となって、地位と美貌を兼ね備えた女性たちとの逢瀬を重ねるうちに、さえなかった会計士が自信に満ちたモテ男に変わるのだ。その晩も、ジョナサンは“S”というイニシャルの美女とホテルに入るのだが、彼の心を奪った“S”は血痕を残して姿を消す。“S”を捜し始めたジョナサンは、やがてワイアットの仕掛けた意外なワナに気づき……。
……というのが公式なあらすじの紹介だろうが、実は展開そのものは幾多の小説や映画で繰り返し使われているパターンなので、必ずしも意外性はない(ネタを明かすことになるので、それらの小説や映画のタイトルは挙げないが)。むしろ本作の魅力となるのは、3人の主要な役者たちが、それぞれに従来のイメージとは違った役柄に挑んでいる点だ。
主演のユアン・マクレガーは――あか抜けない眼鏡と七三分けの髪型の力を借りて――頼りがいのあるオビワン・ケノービとは似ても似つかぬ負け犬男をリアルに造形。得体の知れない落とし穴にハマった小市民の戸惑いと意地を表現する。ワイアット役のヒュー・ジャックマンは、製作も兼ねた本作で日頃の善人ぶりを封印し、堂々たる悪党を演じきった。純朴系女優のミシェル・ウィリアムズが見せる、愁いに満ちたファム・ファタールぶりも、本作の収穫のひとつだろう。
ジョナサンが一夜をともにする美女たちも、シャーロット・ランプリング、ナターシャ・ヘンストリッジ、マギー・Qなど、チョイ役にしては豪華な布陣だ。こんな秘密クラブがあるならぜひ1度紛れこんでみたいと思うのは、“驚くほど退屈で、想像力に欠け、臆病な”映画ライターひとりではあるまい(でしょ?)。
(町田敦夫)
スポンサードリンク

















